生食用ブドウ品種「シャインマスカット」のゲノム解読

要約

生食用ブドウ品種「シャインマスカット」のゲノム配列は約490Mbからなる。解読されたゲノム配列から予測された遺伝子数は約32,827個であり、これらの中には他のブドウ属のゲノム参照配列からは見出されていない「シャインマスカット」特異的と考えられる遺伝子が234個含まれる。

  • キーワード : ブドウ、欧米雑種、シャインマスカット、全ゲノム解読
  • 担当 : 果樹茶業研究部門・果樹品種育成研究領域・果樹茶育種基盤グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

日本の生食用ブドウ育種は、農研機構が2006年に品種登録した「シャインマスカット」を含め、ヨーロッパブドウとアメリカブドウの種間交雑由来の交配により進められている。一方、世界的に見るとブドウの栽培は生食用よりもワイン用ブドウが多く、また、ワイン用ブドウにはヨーロッパブドウが広く利用されているため、ゲノム情報はヨーロッパブドウでは充実しているものの、欧米雑種ブドウのゲノム情報の整備は遅れている。そこで、生食用ブドウのデータ駆動型育種の情報基盤を整備するため、欧米雑種ブドウ品種の代表であり、新品種育成のための交配親としても広く利用されている「シャインマスカット」のゲノム配列を精密に解読する。

成果の内容・特徴

  • これまでブドウで広く利用されてきたピノノワール由来系統のゲノム配列をはじめ、従来の技術による多くのブドウのゲノム配列は、両親から違うゲノム配列を受け継いでいてもどちらかの配列を代表として整列させたUnphased genomeであった。一方、今回解読された「シャインマスカット」のゲノム配列は、Unphased genomeだけでなく種子親及び花粉親から異なる配列を受け継いだ箇所を区別して整列したPhased genomeも含まれており、欧米雑種ブドウとして優れた品種が成立した過程をゲノムレベルで解明することにつながる知見である。Unphased genomeは全長で約490Mbからなり、ゲノム全体をカバーしていると考えられる(表1)。
  • 「シャインマスカット」のゲノム配列には、塩基配列の特徴及び葉や果実等から抽出したRNAの配列情報を決定して得られた発現遺伝子情報を用いてゲノム全体で約32,827個の遺伝子が予測されており(表1)、各遺伝子は予測された遺伝子の機能に関する注釈情報が付されてデータベース化されている。
  • 「シャインマスカット」ゲノムで予測された遺伝子群を他のブドウ属のゲノム配列やシロイヌナズナのゲノム配列で予測された遺伝子群と比較すると、4,385遺伝子がブドウ属特異的であり、234遺伝子が「シャインマスカット」特異的と区別されている(図1)。これらは、「シャインマスカット」がもつ優れた形質に関連する遺伝子が含まれている可能性があり、今後の生食用ブドウの遺伝育種学研究にとって有用な情報である。

成果の活用面・留意点

  • 「シャインマスカット」のゲノム配列、遺伝子配列及び注釈情報は、公益財団法人かずさDNA研究所が運営する植物ゲノム情報サイトPlant Gardenより入手できる(https://plantgarden.jp/ja/list/t2599122)。
  • 本成果は、果実形質や栽培特性を改良することを目指した生食用ブドウの育種のためのDNAマーカー開発や、重要な形質の鍵となる遺伝子を特定しゲノム編集技術による改良を行う研究のための基盤情報となる。

具体的データ

表1 「シャインマスカット」ゲノム配列の概要,図1 「シャインマスカット」、ブドウ属3種、シロイヌナズナのゲノム中に含まれる共通遺伝子数の比較

その他

  • 予算区分 : 交付金、内閣府(SIP、「データ駆動型育種」推進基盤技術の開発とその活用による新価値農作物品種の開発)
  • 研究期間 : 2018~2022年度
  • 研究担当者 : 東暁史、谷口郁也、白澤健太(かずさDNA研)、平川英樹(かずさDNA研)、山本俊哉、佐藤明彦、Ghelfi Andrea(かずさDNA研、国立遺伝研)、磯部祥子(かずさDNA研)
  • 発表論文等 : Shirasawa et al. (2022) DNA Res. dsac040