塩基性硫酸銅フロアブル剤のチャ赤焼病防除効果

要約

塩基性硫酸銅フロアブル剤はチャ赤焼病防除に有効であり、冬期マシン油散布による赤焼病発病助長の抑制に効果的な"銅剤事前散布法"に適合する。ただし、本剤散布時にパラフィン系展着剤を加用すると赤焼病防除効果が著しく低下する。

  • キーワード : チャ赤焼病、塩基性硫酸銅フロアブル剤、銅剤事前散布法、マシン油、パラフィン系展着剤
  • 担当 : 果樹茶業研究部門・茶業研究領域・茶育種育成・生産グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

Pseudomonas syringae pv. theaeによるチャ赤焼病は主に初秋~一番茶期に発生する感染・発病期間が長い細菌病で、発病茶園では主に銅水和剤による定期的な防除が必要となる。また、チャトゲコナジラミに対し、冬期のマシン油乳剤(以下,マシン油)散布による防除法が開発されているが、赤焼病の発病茶園でマシン油を散布すると、赤焼病が著しく助長されるため、銅水和剤を散布し、その3~7日後にマシン油を散布する銅剤事前散布法によって、赤焼病の発病助長を抑制できることを示した。これまで、種々の銅殺菌剤について、銅剤事前散布法に対する適合性を明らかにしてきたが、微粒子化された製剤で、葉に均一な薬剤付着が見られる塩基性硫酸銅フロアブル剤(銅として14.8 %、以下、硫酸銅F剤)については検討されていない。そこで、硫酸銅F剤の赤焼病防除効果および銅剤事前散布法への本剤の適合性を評価する。また、茶葉への薬液付着性を高めるパラフィン系展着剤を硫酸銅F剤に加用し、防除効果に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 銅水和剤を散布後に赤焼病菌を接種した2019年の試験では、3月30日の最終調査日の対照区の発病は中発生で、マシン油区の発病が最も多い。この時、硫酸銅F剤区の防除価が最も高く、硫酸銅F剤事前散布区と水酸化第二銅水和剤(以下、水酸化銅DF剤)区の防除価は同等である(表1)。
  • 2019~2020年の試験では、赤焼病菌を接種し、初発確認後から防除試験を行う。最終調査日の3月21日の対照区の発病は甚発生である。この時、硫酸銅F剤区の防除価が最も高く、硫酸銅F剤事前散布区と水酸化銅DF剤の防除価は同等である(表2)。パラフィン系展着剤を硫酸銅F剤に加用して散布すると(+P)、茶葉への均一な薬剤付着が阻害され、水滴状に薬液が固着し、薬斑が見られる。硫酸銅F剤+P区及び硫酸銅F剤+P事前散布区の発病葉数は対照区と同等で、防除効果が著しく低下する(表2)。
  • 種類の異なる銅水和剤にパラフィン系展着剤を加用し、赤焼病防除効果を調査する。水酸化銅DF剤を散布すると茶葉に均一な薬剤付着が見られ、薬斑が目立たないが、パラフィン系展着剤の加用により、薬斑を生じる。硫酸銅水和剤はP展着剤の加用の有無に係わらず、薬斑を生じる。3月19日の対照区の赤焼病は1104枚/m2の甚発生で、防除価は高い順から、硫酸銅F剤、水酸化銅DF剤、硫酸銅水和剤であり、パラフィン系展着剤の加用により、いずれの薬剤も防除効果が低下する(表3)。発病葉数に対する銅水和剤の種類とパラフィン系展着剤加用の二元配置分散分析およびTukey法による多重検定を行った結果、供試薬剤間およびパラフィン系展着剤加用の有無のいずれの場合も有意差がある(表4)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、枕崎茶業研究拠点内の「やぶきた」圃場に設置した試験区(1.8 m×2 mの3区制)に、赤焼病菌K9301株を接種濃度約2×108 cfu/mlで200ml/m2を樹冠面に接種し、供試薬剤を400 L/10a相当量散布して得られたものである。
  • 硫酸銅F剤の防除価は3回の防除試験の全てで、水酸化銅DF剤より高く、赤焼病防除効果に優れる。
  • 供試した硫酸銅F剤と98 %マシン油は茶の有機栽培で使用できる。両剤を使用することで、有機栽培茶園における冬期の赤焼病防除およびチャトゲコナジラミの同時防除ができる。
  • パラフィン系展着剤は有機栽培で使用可能であるが、殺菌剤による病害防除効果を高める場合と低下させる場合がある。赤焼病発生茶園における銅水和剤による防除では、防除効果を低下させるパラフィン系展着剤の加用は避ける。

具体的データ

表1 硫酸銅フロアブル剤のチャ赤焼病防除効果I,表2 硫酸銅フロアブル剤のチャ赤焼病防除効果II,表3 銅水和剤へのパラフィン系展着剤加用が赤焼病防除に及ぼす影響,表4 発病葉数に対する銅水和剤の種類とパラフィン系展着剤加用の二元配置分散分析およびTukey法による多重検定

その他

  • 予算区分 : 交付金、九州病害虫防除推進協議会茶樹連絡試験
  • 研究期間 : 2018~2021年度
  • 研究担当者 : 吉田克志
  • 発表論文等 : 吉田克志(2022)九病虫研報、68:48-55