カラスによるビニールハウスの損傷対策技術「ハウスにテグス君」

要約

「ハウスにテグス君」は、ハウスの両側に立てた弾性ポールにテグスをジグザグに張ることで、カラスによる損傷被害を受けやすいハウス上部および妻面との角を効果的に守る。設置作業はハウス周囲の地上から行うため、脚立等による高所作業は不要である。

  • キーワード : カラス、ビニールハウス、穴開け被害、損傷、ハウスにテグス君
  • 担当 : 畜産研究部門・動物行動管理研究領域・動物行動管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

農業用ビニールハウスにカラスが止まり、フィルムを損傷する行動が各地で問題になっている。フィルムの損傷により、ビニールハウスの保温性の低下だけでなく、強風時の被覆資材の破損や基礎の浮き上がり等の原因になる恐れもあるが、フィルムの張り直しや補修には資材費と多大な労力を要する。大型実験ケージで飼育しているカラスにビニールハウスを提示する実験を行い、農業者の指摘と同様の損傷がカラスのくちばしによる破きや爪による刺し傷として生じること、フィルムの種類を変更しても被害は防げないことを確認している。
そこで、本研究では、ビニールハウスにカラスが止まることを防ぐための、効果的かつ設置作業が簡単なテグスの設置技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 「ハウスにテグス君」(図1)は、弾性ポール、直管パイプ、トンネルパッカーを使い(表1)、釣り用透明テグスをハウス上30cm程度の高さに、ハウス周囲の地上からの作業で張る。棟高3m×間口5m×奥行き10mのハウスに設置する場合(図2)の作業時間は2人で1.5時間程度である。
  • ハウスの両側に長さ1.4mの直管パイプをハウスから1m離して1m間隔で打ち込む。妻面に近い2区間は0.5m間隔とする(図2)。
  • 先に平行のテグスを張る(図2・左)。ハウス間口の長さよりも2m長く切ったテグスの両端を、弾性ポール2本にそれぞれトンネルパッカーで止める。これを2人で保持してハウスの上を通して運んでいき、対向する直管パイプに弾性ポールを差し込んで立てる。
  • 続いて斜め張りのテグスを張る(図2・右)。先に張った平行のテグスよりも数cm長く切ったテグスの両端を2人でそれぞれ持ち、ハウスの上に載せて滑らせて運んでいく。平行のテグスを張っている弾性ポールを引き下ろすように曲げて、先端に止めてあるトンネルパッカーのもう一方の止め部分を使って斜め張りテグスを止める(トンネルパッカーには1個で2つの止め部分がある)。妻面より外側(ハウスの両端部分)のテグスは低めに張って、カラス被害を受けやすいハウス肩部分の角を守る。
  • 損傷防止効果の検証試験では、4.5ヶ月経過(「ハウスにテグス君」のみ5.5ヶ月経過)までにカラスが損傷した穴の個数は対照(テグスなし)ではハウス上部を中心に257個、経験的に行われる峰1本テグスではハウスの肩および妻面との角を中心に155個であり、ハウスの奥行き方向のジグザグでテグスを張った試作型でも61個であったのに比べ、ハウスの間口方向のジグザグでテグスを張る「ハウスにテグス君」は21個で大幅に少なく、穴サイズの最大値も大きく減少している(図3)。これは飼育カラスで得られた結果であり、野外条件ではカラスは採食に多くの時間を費やす必要があることから、採食と関係しないフィルム損傷行動の頻度はさらに少なくなると考えられる。静岡県内の被害多発地のハウス1棟で行った現地検証では、設置後2年にわたってカラス被害はなく、張り直し等のメンテナンス作業も発生していない。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 棟高3.5mまで、間口20mまでのビニールハウスで利用可能である。棟高3.5m超では弾性ポールの長さが不足すること、間口20m超ではテグスの垂れ下がりが大きくなることにより、適用対象外となる。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国
  • その他 : 写真を多用して設置方法をわかりやすく解説した標準作業手順書を作成し、ウェブサイト等で広く公表して農業者および自治体やJA等の鳥獣害対策担当者による活用をはかる。

具体的データ

図1 「ハウスにテグス君」の構造,表1 棟高3m×間口5m×奥行き10mのハウスに設置する場合の資材費,図2 「ハウスにテグス君」の設置手順,図3 カラスが損傷した穴の個数および穴サイズの最大値

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2016~2022年度
  • 研究担当者 : 吉田保志子、佐伯緑
  • 発表論文等 : Yoshida H. et al. (2019) Appl. Entomol. Zool. 54:399-408