国内二倍体イタリアンライグラス品種・育種材料の遺伝的多様性

要約

アレル頻度に基づく遺伝的多様性の解析により、国内の二倍体イタリアンライグラス品種・育種材料は大きく二つのグループに区分される。早生品種の品種内遺伝的多様性は減少傾向にあり、得られた情報は遺伝的多様性の維持・拡大に利用できる。

  • キーワード : イタリアンライグラス、遺伝的多様性、品種、育種、アレル頻度
  • 担当 : 畜産研究部門・畜産飼料作研究領域・飼料作物育種グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

他殖性であるイタリアンライグラス(Lolium multiflorum Lam.)の品種は、遺伝的に異なる個体から構成され、一定のアレル(対立遺伝子)の頻度をもつ集団とみなすことができる。その育種においては循環選抜等により特定の遺伝子を集積することで目的形質の改良を行うが、その際、収量性や広域環境適応性等に関わると考えられる遺伝的多様性を一定程度維持する必要がある。したがって品種や育種材料の間の遺伝的な関係性やそれぞれの集団内の多様性の把握は、育種を進める上での重要な基盤的知見をもたらす。しかしながら、一般的な個体単位の遺伝子型の評価による遺伝的多様性の評価では多大なコスト・手間を要する。
そこで本研究では、集団(品種・育種材料)に含まれる複数個体に由来するバルクDNAを対象とする縮約ゲノム解析(ゲノム中の任意の一部領域を解読する解析)により簡便かつ低コストで得られるアレルの頻度情報を利用することで、国内を中心とする二倍体イタリアンライグラスの品種や育種材料等の遺伝的多様性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 各集団(品種・育種材料)100~200個体に由来する混合ゲノムDNAを対象に縮約ゲノム解析(GRAS-Di法)を行い、得られた配列を参照ゲノム配列にマッピングし、一定以上の頻度・深度を有する配列(2629アレル/456ローカス)を選定したのち、その頻度から各種多様性指標を算出する。
  • 集団間遺伝距離のクラスター解析およびアレル頻度の主成分分析により国内品種・育種材料を中心とする89集団は大きく2つのグループに分けられる(図1および図2)。得られた近縁関係は育種履歴を反映する(図1)。
  • 集団内多様性の指標である平均期待ヘテロ接合度およびローカスあたりの平均アレル数は図3の分布を示す。早生品種の平均期待ヘテロ接合度は近年減少傾向にある(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 二倍体イタリアンライグラス育種において多様性の維持・拡大のための参考情報として活用できる。(例:グループ1に属する育種材料の遺伝的多様性を拡大する際、グループ2の材料を加える)
  • 本研究で用いた手法は二倍体イタリアンライグラスに限らず、遺伝的にヘテロな集団のジェノタイピングや遺伝的多様性の評価に利用できる。

具体的データ

図1 Neiの標準遺伝距離に基づく群平均法によるクラスタリング結果,図2 アレル頻度に基づく主成分プロット,図3 集団内多様性指標の分布,図4 早生品種の品種登録出願年と集団内多様性

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2019~2020年度
  • 研究担当者 : 田村健一、荒川明、清多佳子、米丸淳一
  • 発表論文等 : Tamura K. et al. (2022) Grassl Sci 68:263-276