要約
トウモロコシすす紋病の発生は気象条件に依存する。病原菌が胞子を形成するとき、また、胞子が発芽してトウモロコシ葉組織に侵入するときに相対湿度90%以上の状態が持続していなければならない。このときに必要な持続時間の長さは気温によって異なる。
- キーワード : トウモロコシすす紋病、発生予察、気温、相対湿度
- 担当 : 畜産研究部門・畜産飼料作研究領域・飼料作物育種グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
すす紋病はトウモロコシの生育後期に発生する病害である。本病の発生はその年の気象条件によって左右され、多発年には大幅な減収を引き起こす。本病の病原菌は糸状菌(かび)の一種であり、胞子形成と植物への侵入には一定以上の気温と多湿条件の持続が必要であるが、その具体的な値についてはこれまでに様々な報告があり、一致しない。本研究では、トウモロコシ圃場で飛散胞子数と病斑数を経時的に調査し、胞子数及び病斑数の増加を最も的確に説明できる気象条件を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 2018及び2019年の圃場観察では、Leach et al. (1977)が提唱した「相対湿度90%以上の状態が10時間以上持続し、その間の平均気温が15°C以上」となった直後に本病菌の胞子が空中に飛散しているのが検出される(図1)。そこで上記の気象条件を「胞子形成条件」とする。
- トウモロコシ葉上で胞子が発芽し、表皮組織に侵入するまでの時間を室内実験で求めたところ、Levy and Cohen(1983)の報告よりも長時間(17°Cで18時間、19.7°Cで15時間、21.5°Cで12時間、24°Cで9時間)を要する。この4点を結ぶ折れ線と同じ、または、より高い気温・長時間の多湿条件(相対湿度90%以上)となる場合を「感染成立条件」とする(図2)。
- 圃場で胞子の飛散が観察された後に感染成立条件が出現すると、2-3週間の潜伏期間を経て病斑数が急増する(図1)。すなわち、「胞子形成条件」が出現した日に続いて「感染成立条件」が出現した場合に本病が発生する。
- 「胞子形成条件」及び「感染成立条件」の判定のためのプログラム「ストップ!!すす紋病!」をMicrosoft ExcelのVisual Basic for Applicationsを用いて試作した(図3)。これに、民間気象予報会社等が発表する気温及び相対湿度の1時間毎の値を入力すれば、「胞子形成条件」及び「感染成立条件」の出現を予測することもできる。
成果の活用面・留意点
- 本病の発生には「伝染源(前年の罹病葉の残渣等)が存在する」「栽培されているトウモロコシ品種が本病に対して感受性である」「本病の病原菌による胞子形成・感染成立に必要な気象条件が出現する」の3要因が必要である。しかし、「ストップ!!すす紋病!」で判定できるのは3番目の要因のみであり、本プログラムの判定結果のみで本病が発生すると断定することはできない。気象条件は病害発生の必要条件であるが、十分条件ではない。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2016~2021年度
- 研究担当者 : 岡部郁子
- 発表論文等 :
- 岡部(2021)日植病報、87:214-221
- 岡部(2022)職務作成プログラム「ストップ!!すす紋病!」機構-G11