畝立て播種や多肥により子実用トウモロコシの湿害が軽減される

要約

排水不良な水田転換畑における子実用トウモロコシの栽培においては、耕うん同時畝立て播種や基肥の増施により、湿害による減収を軽減可能である。

  • キーワード : 畝立て播種、子実用トウモロコシ、湿害対策、水田転換畑、多肥栽培
  • 担当 : 畜産研究部門・研究推進部・研究推進室
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

現在、わが国では国産の濃厚飼料を生産するための新たな作物として、子実用トウモロコシが注目されている。しかし、水田転換畑における子実用トウモロコシの栽培では、しばしば湿害により子実収量が減少し、その解決が課題となっている。これまで、ホールクロップサイレージ用トウモロコシについては、排水不良圃場の湿害軽減技術として、耕うん同時畝立て播種や基肥の増施が有効であることが示されている。しかしながら、子実用トウモロコシについては、これらの技術が湿害軽減に有効であるか、まだ明らかにされていない。 そこで、本研究では、水田転換畑における子実用トウモロコシの湿害軽減技術として耕うん同時畝立て播種および多肥の有効性を福島県新地町の営農圃場において明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 排水不良な水田転換畑において、中耕培土機に2つの不耕起播種ユニットを連結した2条用の耕うん同時畝立て播種用の試作機(図1①)により畝立て播種を行うことにより、降雨後に滞水する水位よりも畝の地表面が高くなり(同②および③)、畝立て播種されたトウモロコシの冠水が軽減される。
  • 上記の効果により、湿害発生圃場では畝立て播種されたトウモロコシの子実収量(534kg/10a、水分15%換算坪刈り収量)は慣行播種(249kg/10a)よりも高く、湿害が大幅に軽減される(表1)。
  • 同様な効果は基肥の増施によっても期待でき、基肥としてN-P2O5-K2Oの各成分20kg/10aを施用した標準施肥区(261kg/10a)に比較し、基肥を各成分30kg/10aに増施した多肥区(522kg/10a)でトウモロコシの子実収量が高い(表1)。
  • これらの結果、畝立て播種と多肥を組み合わせた区でトウモロコシの子実収量が最も高くなる(639kg/10a)(図2)。
  • 各調査地点において生育期間中に地下水位が地下20cmを上回る期間の割合と調査地点の子実収量との間に5%水準で有意な負の相関関係が認められ、畝立てにより地表面から地下水位までの距離が確保されることで湿害が軽減される(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で用いた耕うん同時畝立て播種用試作機は、農業機械研究部門が開発し、2022年より市販化された大豆用の高速耕うん同時畝立て播種機と同様の機構を有する試作機である。
  • 湿害が発生しない条件で畝立て播種を行うとトウモロコシの倒伏の危険性が高まる。また、畝立て播種では鎮圧が畝上部のみであり、除草剤の効果が劣ることがある。このため、畝立て播種は湿害発生圃場での活用が推奨される。

具体的データ

図1 耕うん同時畝立て播種用の試作機、ならびに慣行播種区と畝立て播種区における降雨後の冠水状況の比較,表1  各処理区におけるトウモロコシ子実収量および調査地点個体密度,図2  両播種試験区における標準施肥区および多肥区の2か年平均のトウモロコシ子実収量(水分15%換算),図3  各調査地点における生育期間中の高地下水位期間割合と子実収量(水分15%換算)の関係

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(食料生産地域再生のための先端技術展開事業)
  • 研究期間 : 2019~2020年度
  • 研究担当者 : 菅野勉、赤松佑紀、佐々木梢、森田聡一郎、佐々木寛幸、松波寿典、内野宙、重松健太
  • 発表論文等 : 菅野ら(2023)日草誌、68: 152-156