骨格筋線維型を視覚的に識別できるマウスの作出

要約

骨格筋線維は遅筋型筋線維と速筋型筋線維に大別される。筋線維型ごとに異なる蛍光タンパク質を発現させることで、蛍光波長の違いにより筋線維型を簡便に区別できるマウスを作出する。各筋線維型の特徴を解析するために有効なモデルマウスとなる。

  • キーワード : 骨格筋、遅筋型筋線維、速筋型筋線維、ミオシン重鎖
  • 担当 : 畜産研究部門・食肉用家畜研究領域・食肉品質グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

食肉のもととなる家畜骨格筋は筋線維が数万本束ねられて形成される。それぞれの筋線維は遅筋型筋線維と速筋型筋線維に大別され、組織としての筋線維型は遅筋および速筋型筋線維の割合で決まる。筋線維型が食肉の品質(筋量、脂肪交雑の割合、風味、キメ等)に関与するため、従来から筋線維型の特性を明らかにする研究が行われてきた。しかし、これまでの研究では、筋線維型をPCRあるいは抗体を用いてタイピングしたうえで、筋線維型の特性を改めて測定する必要があり、手間と時間がかかることが問題であった。そのため、骨格筋組織レベルで筋線維型の特性を明らかにする研究が多かった。そこで、本研究では抗体等を用いずに、蛍光波長の違いにより、筋線維型が簡便に判別可能であり、筋線維レベルで筋線維型の区別が可能なマウスを作出する。また、このマウスを使った解析例として、骨格筋組織から単一筋線維を調製し、筋線維型別にDNAメチル化割合を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 遅筋型ミオシン重鎖であるMyh7に緑色蛍光タンパク質(GFP)を融合したGFP-Myh7、および速筋型ミオシン重鎖の1つであるMyh1にオレンジ色蛍光タンパク質(KuO)を融合したKuO-Myh1を発現するマウスを作出した。作出したマウス骨格筋の横断切片において、GFP-Myh7を発現する筋線維は抗遅筋型ミオシン重鎖抗体で陽性である(図1)。また、KuO-Myh1を発現する筋線維は抗速筋型ミオシン重鎖抗体で陽性である(図2)。
  • 作出したマウス骨格筋組織から単離した筋線維は、実体顕微鏡下では、単一筋線維レベルで蛍光を発する(図3)。
  • 遅筋型筋線維および速筋型筋線維におけるメチル化DNAの特徴を明らかにするために、GFP-Myh7陽性および陰性の筋線維をそれぞれ採取した。DNA調製後、RRBS法によりメチル化DNAの網羅的な解析し、遅筋型筋線維および速筋型筋線維において高度にメチル化されている領域の割合を示す。プロモーター、エクソン、イントロンのメチル化割合は、速筋型筋線維では14%、32%、54%、遅筋型線維では26%、27%、47%であった(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 食肉の品質に筋線維型が関与するため、作出したマウスから得られたデータは食肉生産における基礎的知見として役立つ。
  • 作出したマウス骨格筋では改めてタイピングせずに蛍光顕微鏡下において筋線維型を識別できる。しかも、骨格筋組織を試料とするよりも純度の高い特定の筋線維型の筋線維のみを試料とすることで、その筋線維型の特性を解析することができる。
  • モデル動物としてマウスを使った試験である。

具体的データ

図1 GFP-Myh7マウス骨格筋横断切片像,図2 KuO-Myh1マウス骨格筋横断切片像,図3 単離した筋線維の実体顕微鏡写真,図4 高メチル化された遺伝子部位の割合

その他

  • 予算区分 : 文部科学省(科研費16K08079、19H03100)
  • 研究期間 : 2016~2022年度
  • 研究担当者 : 尾嶋孝一、大江美香、室谷進、西邑隆徳(北大)
  • 発表論文等 :
    • Ojima K. et al. (2022) Am. J. Physiol. Cell Physiol. 323:C520-C535.
    • Oe M. et al. (2021) Physiol. Genomics. 53:69-83.