加齢性の聴力低下を予防する食素材の簡便評価モデル

要約

ヒトにおいては数十年かけて進行する加齢性難聴について、予防食素材の効果を3ヶ月程度で評価できるモデル手法である。小動物を利用し、食素材を飼料に混ぜて毎日摂取させ、その前後で聴力測定をすることで、加齢に伴う聴力低下の遅延効果を評価するのに有効である。

  • キーワード : 加齢性難聴、老化予防、長期摂取、食素材
  • 担当 : 畜産研究部門・食肉用家畜研究領域・食肉用家畜飼養技術グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

我が国は世界で最も高齢化が進んでおり、加齢性疾患の増加に起因する様々な問題が懸念されている。難聴や認知症などの加齢性疾患は、長い年月をかけて徐々に進行することから、疾患状態に陥ってからの治療よりも、先々から予防することが重要である。
そこで、本研究では、日常的に安心して長期間摂取可能な食素材から、将来の難聴を予防することをコンセプトに、マウスモデルを利用して、加齢に伴う聴力低下について、食素材の長期摂取による抑制効果を評価する。赤ちゃんの聴力測定にも利用される聴性脳幹反応データを取得し、機械学習による閾値判定と組み合わせることで、3ヶ月程度で、効率的に食素材の聴力低下予防効果を評価する。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、実験マウスに、試験素材を3ヶ月程度、混餌摂取させることによって、その素材の加齢に伴う聴力低下予防効果を評価する。
  • 50種類の食素材を利用した探索において、春菊を摂取させることは、聴力低下の遅延に有効である(図1)。
  • 聴性脳幹反応データについて、これまでの閾値判定データを機械学習させたプログラムを利用することにより、9割程度のデータを自動的に閾値判定することが可能となる(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 老化予防効果が期待される食素材や食品成分について、比較的短期間で、聴力低下予防効果についての知見を取得できる。
  • 例えば、種類や産地の異なる春菊について、聴力低下効果とメタボロームを比較することで、効果と相関の高いマーカー成分を取得することが可能となる。
  • ヒトにおいて、難聴と認知症は相関が高いことが知られており、難聴の発症を遅延させる食素材は、認知症の発症遅延にも貢献できる可能性がある。
  • この評価系は、加齢に伴う聴力低下の予防効果がある食素材候補を効率的に見出すことや、有効成分の解析、育種マーカーの取得等に有効である。
  • 動物モデルを利用した結果であり、ヒトに適用する際には、ヒトにおける有効性の検証が必要である。

具体的データ

図1 マウスの聴力閾値,図2 聴性脳幹反応データと自動閾値判定

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(農食事業)、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2015~2022年度
  • 研究担当者 : 大池秀明、冨田理、小谷野仁
  • 発表論文等 :
    • Oike H et al.(2022) Biosci Biotechnol Biochem. 86:1085-1094
    • 大池、小谷野、特願(2021年1月19日)