泌乳期中における乳用牛の乳量および乳成分からのエネルギーバランス推定式

要約

乳用牛の乳量、乳脂肪率、乳タンパク質率および乳糖率の記録を用いて、個体の泌乳期中のエネルギーバランスを推定する式である。エネルギーバランス推定値の分娩後日数クラスごとの平均値は実測値とよく一致し、牛群の飼養管理の適正化などでの利用に有用と考えられる。

  • キーワード : エネルギーバランス、乳用牛、乳成分、牛群検定
  • 担当 : 畜産研究部門・乳牛精密管理研究領域・乳牛精密栄養管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

乳用牛は分娩後の泌乳初期において、採食によるエネルギー摂取量が乳生産を中心とするエネルギー要求量に追いつかず、エネルギーバランスが負に傾きがちである。負のエネルギーバランスは、繁殖性の悪化やケトーシス等の代謝障害を引き起こすことが知られている。健全な乳生産のためにはエネルギーバランスを把握し、改良することが望ましいが、乳期中のエネルギーバランスを実測するには定期的に飼料と排せつ物の量と成分を把握する必要があり、多大な費用や手間がかかるため、現実的に困難である。そこで、エネルギーバランスとの関連性が報告されている乳成分等の記録を利用することを考えた。全国で実施されている乳用牛群検定で収集されている記録を用いた推定方法を確立できれば、簡易に多数の個体のエネルギーバランスを推定することができ、牛群の飼養管理の適正化などでの利用が可能となる。本研究では、実測したエネルギーバランスと乳生産記録を用いて、牛群検定記録に適用可能なエネルギーバランスの推定式を作成する。

成果の内容・特徴

  • 北海道立総合研究機構 農業研究本部 酪農試験場(道総研酪農試)において、2015~2019年に飼養されていたホルスタイン牛102個体156乳期45,997件の記録によるエネルギーバランスは分娩直後に負の値であり、分娩後60日頃に正へと転ずる(図1)。泌乳中後期にはゆるやかに上昇する。分娩後150日頃における給餌飼料の切り替えによる影響を把握できる。
  • エネルギーバランスを目的変数とした重回帰分析において、分娩後日数クラス(分娩後6~305日を10日ごと30クラスに分けた)、乳脂肪率と乳タンパク質率の比率、乳量、乳タンパク質率、乳糖率、乳量の日変化量が説明変数として選択される(式1)。重回帰式の自由度調整済み寄与率は0.60である。
  • エネルギーバランスの実測値と推定値は、各分娩後日数クラスにおける牛群平均値の比較においてよく一致している(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 牛群単位での飼料の切り替えの影響など、牛群の飼養管理の適正化などでの利用に有用と考えられる。
  • 乳用牛群検定において毎月収集されている記録を用いるため、全国の乳用牛のうち検定に加入している個体(全国の乳用牛の約6割)に適用できる。
  • 個体の遺伝的能力評価では多くの血縁個体の記録を利用できることから、エネルギーバランスの遺伝的改良を目的とした、遺伝的特性の解明や遺伝的評価値の算出を行う上で利用できる可能性がある。
  • 個々の推定精度が十分ではないことから、個体管理ではなく、牛群平均値や長期的な変化を観察することで、牛群管理の指標としての利用することが望ましい。

具体的データ

式1 エネルギーバランス(EB)推定式,図1 エネルギーバランス実測値の泌乳期中推移,図2 エネルギーバランス(EB)実測値と推定値のプロット

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(生産現場強化のための研究開発:家畜の生涯生産性向上のための育種手法の開発)
  • 研究期間 : 2015~2021年度
  • 研究担当者 : 西浦明子、佐々木修、谷川珠子(道総研酪農試)、窪田明日香(道総研酪農試)、武田尚人、齋藤ゆり子
  • 発表論文等 : Nishiura A. et al. (2022) Anim. Sci. J. 95:e13757