収穫時のレンコンにみられるえぐり傷等の外傷はカモ等による食害と考えてよい

要約

ハス田の泥中から収穫されたレンコンにみられる、外からの力が加わったことによる傷は、摂食試験で得られたカモ等が食べたと判明している食痕と形状がよく一致し、これまで農家により「カモ被害」と認識されてきたえぐり傷等はカモ等が食べたことによる食痕と考えてよい。

  • キーワード : 鳥害、食痕、レンコン、カモ類、オオバン
  • 担当 : 畜産研究部門・動物行動管理研究領域・動物行動管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

農作物に残された食痕は、加害鳥獣を特定する手がかりとして用いられるが、レンコンでは、加害種と食痕の形状を結び付けた知見がない。国内最大のレンコン産地である茨城県霞ケ浦周辺では、カモ類により約2億円、バン類により約1億円(2020年度)の被害が報告され、ハス田の泥中から収穫されたレンコンにみられるえぐり傷等の外傷は農家により「カモ被害」と認識されているが、実際にカモ等の食害によるか確かめられていない。
そこで本研究では、収穫時にみられる「カモ被害」とされる外傷の形状の特徴を明らかにし、摂食試験により得られた加害種の判明している食痕の形状や劣化の経過と比べることで、レンコン被害の正確な把握につながる知見を得る。

成果の内容・特徴

  • 霞ケ浦周辺のハス田8圃場で収穫に立ち会うなどして回収した傷のあるレンコン170本において、農家の見解により「カモ被害」とされる傷が258箇所あり、形状は7通りに類別でき(図1)、外からの力が加わったことによる傷や欠損が特徴である(図2上段)。ほかに病害等によるとされる傷が41箇所あり、内側からの腐敗や凹み、表面の斑点が特徴で(図2下段)、外傷とは異なる。
  • 収穫後のハス田にレンコンを設置し、それを食べた種を録画で確認する摂食試験で回収された、オオバンのみ、又はマガモとオオバンの複合による食痕の形状は、収穫立ち会いで得た7通りの外傷のいずれかに合致し(図3)、「カモ被害」とされる外傷はカモ等による食痕と考えられる。
  • 摂食試験で得たオオバンのみによる食痕のうち、1回のついばみによる突き刺し傷の形状は、オオバンの尖った嘴の先端の形状とよく一致する。一方で、オオバンのみの複数回のついばみによる食痕(図3e)では、マガモとオオバンの複合による食痕(図3h)と似た形状が認められる場合もあり、複数回のついばみによる連続痕や大きくえぐれた形状の食痕では、食痕から加害種を推定することは難しい。
  • 摂食試験で回収した食痕のあるレンコンをハス田の泥中に埋設し経過を観察すると、食痕は食害から1~2日で黒紫に変色するが、形状は変わらず、時間が経過しても病害等による傷とは区別可能である。

成果の活用面・留意点

  • カモ類(カモ目カモ科の水鳥)は扁平な嘴、バン類(ツル目クイナ科の水鳥)は尖った嘴を持つ。カモ類がその扁平な嘴でレンコンを食べることの想像しにくさ等から、カモ類は固いレンコンを食べることが出来ないとした見解もあったが、本成果により、収穫時にみられる食痕から「カモ被害」を正しく把握できる。
  • マガモのみや、カモ等の他の種による食痕は今回の摂食試験で得られなかったため、今後確かめることが望まれる。
  • 霞ケ浦周辺のハス田に生息する鳥類以外の生物では、ミシシッピアカミミガメ、アメリカザリガニ、スクミリンゴガイが春にハスの若芽を食害するとの報告があるが、レンコンへの食害は報告されていない。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 交付金、その他外部資金(2021年度つくば産学連携強化プロジェクト)
  • 研究期間 : 2020~2022年度
  • 研究担当者 : 益子美由希、佐伯緑、山口恭弘、吉田保志子
  • 発表論文等 : 益子ら(2023)日本応用動物昆虫学会誌、67(1):1-13