要約
センサー設置時1回の採土によって算出した間隙率(飽和体積含水率)に基づき、センサーの個体差や設置条件を包含した校正式を、簡易迅速に決定する校正法である。土壌水分量の調製・容器への充填・測定・サンプルの解体を繰り返す慣行法より、手間と時間が大幅に削減できる。
- キーワード : 土壌水分センサー、間隙率、飽和体積含水率、EC-5、校正法
- 担当 : 西日本農業研究センター・中山間営農研究領域・地域営農グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
土壌水分センサーを使用する際には、センサー毎にその使用条件に合った校正が必要である。土壌水分量の調製・容器への充填・測定・分解を繰り返す慣行法は時間と手間を必要とするため、一定の精度を確保しつつ、簡便に実施できる校正法が必要とされている。これまでに、多数の校正実績から校正式中の係数の特徴を見出し、高水分時のセンサーからの出力値(RAW)と体積含水率の実測値を用いることで、慣行法と較べて手間と時間を大幅に削減しつつ、測定条件・センサー毎に校正式を決定する手法(従来法)が開発されている。
(https://www.naro.go.jp/project/results/5th_laboratory/warc/2021/warc21_s07.html)
しかし、現地圃場が遠く離れた場合等では、高水分量時の実測値を適切なタイミングで取得することができず、当該手法の適用に複数回現地に赴くことになるなど、想定通りには手間と時間を削減できないケースがある。
そこで、本研究では体積含水率の実測値の取得が困難な場合にも、最低限の圃場特性値を使用することで簡易かつ迅速に実施可能な校正法(新法)と適用可能条件を提示する。
成果の内容・特徴
- 本法は、水分センサーの設置時等に一般的に測定される間隙率(飽和体積含水率)を用いて、センサーの設置条件における校正式を決定する方法であり、センサーの設置時1回のみの採土で校正式の決定が可能である(図1上 新法)。センサー設置地点近傍から採取した土壌の水分条件の調製や測定容器への充填、測定、サンプルの解体等を複数回行う慣行法に較べて、手間と時間の両方を大幅に削減できる。
- 本法の手順は以下の通りである(図1上)。(1)センサーの設置時等に定量容器を用いて土壌を採取し、センサー設置地点の乾燥密度を測定する。また、同時に採取した撹乱土壌を用いて土粒子密度を測定する。得られた乾燥密度と土粒子密度から、センサー設置地点の間隙率、すなわち、飽和体積含水率θsを算出する。(2)1200~1300程度かつ同程度のRAWのピーク値が複数回存在する(同程度の値が一定時間継続する場合を含む)土壌モニタリングデータの中から、飽和体積含水率を呈する時のセンサーの出力値(RAWθs:RAWの最大値)を決定する。(3)得られたθsとRAWθsを、図2の式に代入して校正式を決定する。
- 黒ボク土のような透水性の高い土壌を除いて、本法を用いて決定した校正式を用いた場合、体積含水率の実測値を用いた簡易迅速校正法(従来法)と同等の精度で、体積含水率を推定可能である(表1)。
成果の活用面・留意点
- 本法は、METER社の静電容量式土壌水分センサーEC-5を同社のデータロガーに接続した場合に使用できる。また、本法の適用には、大雨や大量灌水後に土壌がほぼ飽和していると考えられる1200~1300程度かつ同程度のRAWのピーク値が複数回(同程度の値が一定時間継続する場合を含む)存在し、モニタリングデータが体積含水率の変動を正確に追跡できていると推定されることが必要である。
- 間隙率(飽和体積含水率)は、実容積計等を使用して決定してもよい。
- 黒ボク土のような透水性が高い土壌については、土壌水分量のモニタリング間隔が長い場合に、飽和体積含水率を呈する時点のRAWが計測できていないことが想定される。この場合には、土壌水分量のモニタリング間隔を短くすることで、体積含水率の変動を正確に追跡できるようにすれば、本法を適用可能である。
- 校正を実施しなかった過去のモニタリングデータについても、飽和体積含水率が決定でき、上記1.の条件が満たされていれば、本法を適用することが可能である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2020~2022年度
- 研究担当者 : 望月秀俊
- 発表論文等 : Mochizuki H. and Sakaguchi I. (2023) JARQ 57:131-137