ニホンナシ「二十世紀」の果梗、種子中元素組成に基づく主要国内産地の推定
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要約
ニホンナシ「二十世紀」果梗および種子中の元素組成を用いる多変量解析から、国内の主産地を判別することが可能である。果梗および種子の元素濃度は土壌中の元素濃度と相関があり、産地判別の結果は産地ごとの土壌の元素組成の違いが反映されている。
- キーワード:ニホンナシ、産地判別、元素組成、判別分析、ICP発光分析、「二十世紀」
- 担当:果樹研・果実鮮度保持研究チーム
- 連絡先:成果情報のお問い合わせ
- 区分:果樹・栽培、共通基盤・土壌肥料
- 分類:行政・参考
背景・ねらい
農産物の産地表示の偽装が近年問題になっており、様々な品目において適切な産地表示が求められている。表示の真偽判定には、科学 的根拠に基づいた判別手法が必要となる。そこで、ニホンナシの果実中元素組成から主要国内産地である鳥取県、長野県とその他の府県を判別する手法を開発す る。
成果の内容・特徴
- 本手法は、「二十世紀」の果梗と種子を取りだし、硝酸で分解後、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置で13元素を定量し、あらかじめ作成しておいた判別基準に当てはめることで国内の主産地を判別する手法である。
- 「二十世紀」の産地を鳥取(18地点)、長野(7地点)およびその他の府県(28地点)の3群に判別するために判別分析を行うと、果梗中13元素を用いた場合の的中率は94.3%(図1)、種子中13元素を用いた場合の的中率は84.9%であり、果梗中9元素と種子中8元素を同時に用いることで3群の判別的中率は98.1%に向上する(図2)。このことから、果梗と種子中の元素組成を用いることでニホンナシ「二十世紀」の産地を高い精度で判別することが可能である。
- 「二十世紀」の果梗中のナトリウム(Na)、ストロンチウム(Sr)、ホウ素(B)濃度および種子中のNa、Sr、B、ニッケル(Ni)濃度は栽培土壌表層(0~20 cm)の0.1 mol L-1塩酸抽出法による土壌中元素濃度と相関があり(図3)、 産地の土壌中と果梗中の元素濃度の高低が鉄(Fe)、B、Na、バリウム(Ba)、Srの5元素で一致している。「二十世紀」の果梗および種子の元素組成 を用いることによって産地を判別できる理由の一つは、これらの元素組成が栽培された土壌中の元素組成を反映するためと考えられる。
成果の活用面・留意点
- 判別基準の信頼性向上のため、定期的に産地の確かな「二十世紀」を入手して分析を行い、判別基準の見直しを行う必要がある。 また、本基準は「二十世紀」の産地を鳥取、長野、その他のいずれかに判別するものであるが、他の産地の判別を行う場合にはデータを蓄積した上で判別基準の 再構築を行う必要がある。
- 食品表示のチェックを行っている行政機関等で利用可能である。
- 出荷果実では果梗が短く切断されているが、その状態でも元素分析は可能である。
具体的データ
その他
- 研究課題名:果実の輸出等を促進する高品質果実安定供給のための基盤技術の開発
- 課題ID:313-a
- 予算区分:交付金プロ(果実等輸出)
- 研究期間:2005~2007年度
- 研究担当者:井上博道、梅宮善章、喜多正幸、中村ゆり
- 発表論文等:井上ら(2007)土肥誌、78:565-571