カンキツかいよう病菌の宿主特異的病原力抑制遺伝子hssB3.0 はキメラ遺伝子である

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要約

カンキツかいよう病菌の病原力発現をブンタン類で特異的に抑制する遺伝子はavrBs3/pthA ファミリーに属するhssB3.0 である。hssB3.0 は弱病原力系統KC21株に共存する2つの相同遺伝子pB3.1 及びpB3.7 間の相同的組換えで生じるキメラであると考えられる。

  • キーワード:カンキツかいよう病菌、avrBs3/pthA ファミリー、相同的組換え、キメラ
  • 担当:果樹研・果樹病害研究チーム
  • 連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・病害虫
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

カンキツかいよう病菌(Xanthomonas axonopodis pv. citri )にはブンタン類に対して特異的に病原力が強い系統と弱い系統の2系統が存在する。これら系統間の病原力の違いにはカンキツかいよう病菌の病原力遺伝子pthA と極めて相同性の高い遺伝子が関与し、本遺伝子が本細菌の病原力発現をブンタン類に対してのみ特異的に抑制する(平成13年度果樹研究成果情報)。従って、弱病原力系統に属する菌株は全て本遺伝子を保有するが、同一菌株内においても、これ以外の複数のpthA 相同遺伝子の存在を確認できる。そこで、宿主特異的病原力抑制遺伝子を含め、弱病原力系統KC21株が保有する全てのavrBs3/pthA (非病原力/病原力)ファミリー遺伝子を同定し、各遺伝子の機能並びに遺伝子間の相互関係について調査する。

成果の内容・特徴

  • カンキツかいよう病菌KC21株には、avrBs3/pthA ファミリー遺伝子としてhssB3.0、pB3.1、pB3.7 及びpthA-KC21 の4つの相同遺伝子が存在する(図1、2A及び2B)。このうち、ブンタン類に対して宿主特異的に病原力を抑制するのはhssB3.0 である。
  • ブンタン類にKC21株が感染すると病斑部が褐変するが、hssB3.0 が破壊されたKC21T46株では褐変しない(図3A及び3B)。すなわち、hssB3.0 はブンタン類に対して特異的に抵抗反応を引き起こす。
  • 中央部の繰り返し領域においてhssB3.0 の5’側から1‐6番目及び13‐14.5番目の反復単位が、pB3.1 の1‐6番目及び14‐15.5番目の単位と同一である(図2A及び2B)。また、hssB3.0 の7‐12番目はpB3.7の2‐7番目の反復単位と同一である(図2A及び2B)。この結果はhssB3.0 がpB3.1 とpB3.7 間の相同的組換えによって生じたキメラ遺伝子であることを示唆する。
  • pB3.1 またはpB3.7 の遺伝子破壊株は、カンキツに対する病原力発現で野生株と差異がない。
  • pthA-KC21 をトランスポゾンにより破壊した細菌株KC21T14はカンキツ葉に対するかいよう形成能を失う(図3C及び3D)。また、本遺伝子は既報の病原力遺伝子pthA と中央反復領域の反復回数で一致するとともに構成も極めてよく似ている(図1、2A及び2B)。この結果は、本遺伝子がカンキツかいよう病菌の病原力発現に必須であり、菌株間で高度に保存されていることを示唆する。

成果の活用面・留意点

  • hssB3.0 の有無によりカンキツかいよう病菌の系統識別が可能である。
  • 植物病原細菌の宿主特異性を決定するavrBs3/pthA ファミリー遺伝子に対応する宿主側因子の解明に寄与する。

具体的データ

図1 avrBs3/pthAファミリー遺伝子の一つ,pthAの構造。

 

図2 カンキツかいよう病菌KC21 株に存在するavrBs3/pthAファミリー遺伝子の中央反復配列(A)と反復単位の推定アミノ酸配列(B)

 

図3 カンキツかいよう病菌がオオタチバナ(ブンタン,A及びB)及びネーブルオレンジ葉(C及びD)に形成した病斑。

 

その他

  • 研究課題名:果樹の紋羽病等難防除病害抑制のための要素技術の開発
  • 課題ID:214-p
  • 予算区分:交付金、科学技術振興調整費(総合研究)「植物‐微生物」(2000~2005)
  • 研究期間:2000~2007年度
  • 研究担当者:塩谷 浩
  • 発表論文等:Shiotani et al. (2007) J. Bacteriol. 189 (8): 3271-3279