性フェロモンによる交信撹乱を用いてカキのフジコナカイガラムシを防除できる
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要約
フジコナカイガラムシの性フェロモン成分をゴムセプタムに含浸させたフェロモン剤による交信撹乱は、飼育容器から小規模野外の各レベルで交尾阻害効果を示す。さらに現地カキ園においても交信撹乱による密度抑制、被害軽減効果を確認できる。
- キーワード:フジコナカイガラムシ、交信撹乱、合成性フェロモン、カキ
- 担当:果樹研・果樹害虫研究チーム
- 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
- 区分:果樹・病害虫、共通基盤・病害虫(虫害)
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
カキ、ブドウなど果樹の重要害虫フジコナカイガラムシに対する薬剤防除は散布適期の把握が難しく、また薬液が虫体に届きにくいなどのために十分な効果が得られないことが多い。本種では性フェロモンの主成分が合成されているので、これを活用した交信撹乱法による防除技術を開発する。
成果の内容・特徴
- コナカイガラムシ類では交信撹乱法の試験事例は少なく、野外で防除に成功した例は本研究が初めてである。
- 本種は交尾した雌成虫のみが産卵する。そこでプラスチック容器(直径8cm×高さ6cm)内のソラマメ、網ケージ(1m×1m×1m)内のカボチャ、ポット植のカキ(樹高1m、9樹)にフジコナカイガラムシ未交尾雌成虫を寄生させ、性フェロモン成分を含浸させたゴムセプタムを実験規模に応じて設置して、雄成虫を放飼する。一定期間後に回収した雌成虫の産卵率はフェロモン処理区で有意に低下し、交信かく乱による交尾阻害効果を確認できる(表1)。
- 福岡県うきは市のカキ園(5a)と島根県出雲市のカキ園(4a)に、5~10個のゴムセプタムを針金でまとめてフェロモン剤とし、これを1aあたりフェロモン量が1gとなるよう、高さ1.5mの位置にそれぞれ167、267カ所設置する(図1)。処理区と無処理区内に設置したフェロモントラップへの雄成虫誘引状況を比較すると、処理区のトラップには雄成虫はほとんど誘引されず、フェロモン処理による高い誘引阻害効果が認められる(図2)。
- フェロモン剤処理区に生息する越冬世代雌成虫(5月下旬から6月上旬に出現)について、野外観察または個体別飼育により調査した産卵雌率は福岡では1.4%、島根では16.7%にとどまり、それぞれの無処理区51%、97. 9%よりも著しく低く、現地カキ園での交信撹乱効果を確認できる(表2)。
- 福岡での6月の幼虫寄生数、9月の被害果率、島根での6月と10月の寄生果率は、いずれもフェロモン処理区で有意に低く、防除効果が認められる(表2)。
成果の活用面・留意点
- 交信撹乱法は本種に対する有力な防除法となる可能性が高いが、試験事例をさらに蓄積する必要がある。
- 実用化のためには交信撹乱用フェロモン剤の製剤化とその農薬登録が必要である。
具体的データ




その他
- 研究課題名:天敵等を用いた果樹害虫の制御・管理技術の開発
- 中課題整理番号:214n
- 予算区分:実用技術
- 研究期間:2006年~2008年度
- 研究担当者:望月雅俊、手柴真弓(福岡農総試)、清水信孝(福岡農総試)、堤隆文(福岡農総試)、澤村信生(島根県農技セ)、奈良井祐隆(島根県農技セ)
- 発表論文等:手柴ら(2009)応動昆53(4):173-180