果樹類白紋羽病菌に病原力低下を引き起こす新種ウイルス(RnMBV1)の発見
※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。
要約
白紋羽病菌W779株から見いだされたウイルスは病原力低下を引き起こす新規ウイルスであり、純化粒子を用いた接種が可能である。
- キーワード:ヴァイロコントロール、白紋羽病、マイコウイルス、病原力低下、ウイルス接種法
- 担当:果樹研・果樹病害研究チーム
- 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
- 区分:果樹・病害虫
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
果樹類白紋羽病は根治が困難な土壌病害であり、防除には大量の農薬の潅注が数年ごとに必要とされることから、これに代わる新たな防除法が求められている。近年、果樹類白紋羽病では病原力を低下させるマイコウイルスによる防除法が『ヴァイロコントロール』として提案され、そのための基礎的研究が行われている。その結果、数種のマイコウイルスに関して糸状菌では一般に困難とされる純化粒子の任意の株への接種が達成されている。これまで白紋羽病菌では明確な病原力低下効果のあるマイコウイルスが1種類見いだされているが、さらに多くのウイルス株を確保することが望まれる。そこで本研究では、高い病原力低下効果を有する多様なマイコウイルスを見いだし、その性状を明らかにするとともに純化粒子の接種法を確立する。
成果の内容・特徴
- 白紋羽病菌W779株はマイコウイルスのゲノムと推定される大きさ約9kbpの2種のdsRNA(dsRNA-1およびdsRNA-2)を保持している。W779株から単菌糸分離によりdsRNAを除去した株では病原力が回復する。
- dsRNA-1およびdsRNA-2の全長は8,931bpと7,180bpであり、dsRNA-1はORF1とORF2を、dsRNA-2はORF3とORF4をコードする(図1)。ORF1、ORF3、ORF4は既知のタンパク質と相同性を示さない。ORF2は数種のマイコウイルスの複製酵素(RdRp)と低い相同性を示す。
- RdRpのモチーフ配列による系統解析ではW779株の配列は既知のマイコウイルスから独立したクレードを形成する(図2)。
- dsRNA-1およびdsRNA-2は直径50nmのウイルス粒子に含まれている(図1)。この粒子は白紋羽病菌に接種が可能であり、ウイルスを感染させた株では病原力が低下する(図3)。また、粒子を構成するタンパク質はORF1にコードされ、その分子量は135kDaである(図1)。
- W779株から見いだされたマイコウイルスは、ゲノム構造と大きさ、RdRpの系統解析、粒子のサイズから新種のウイルスRosellinia necatrix megabirnavirus 1(RnMBV1)として提案され、新たな科を形成すると考えられている。
成果の活用面・留意点
- RnMBV1は新たなヴァイロコントロール因子として白紋羽病菌の防除素材として利用が期待できる。
- RnMBV1は純化粒子を用いて感染させられることから、白紋羽病菌だけでなく他の植物病原糸状菌にも接種できる可能性がある。
具体的データ
その他
- 研究課題名:果樹の紋羽病等難防除病害抑制のための要素技術の開発
- 中課題整理番号:214p
- 予算区分:イノベーション創出
- 研究期間:2008年~2009年度
- 研究担当者:佐々木厚子、兼松聡子、千葉壮太郎(岡大資生研)、Salaipeth L(岡大資生研)、Lin YH(岡大資生研)、鈴木信弘(岡大資生研)
- 発表論文等:Chiba et al. (2009) J. Virol. 83(24): 12801-12812