スペルミジン合成酵素遺伝子導入セイヨウナシは重金属ストレスが軽減される

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要約

スペルミジン合成酵素遺伝子を導入したセイヨウナシでは、重金属(カドミウム、鉛、亜鉛)ストレス下での成長抑制が改善される。また、スペルミジン含有量と抗酸化酵素活性とは正の相関があり、逆に膜の障害程度とは負の相関関係がある。

  • キーワード:スペルミジン、セイヨウナシ、遺伝子組換え体、重金属耐性
  • 担当:果樹研・果樹温暖化研究チーム
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・栽培
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

工業化の拡大や生活レベルの向上により、環境破壊や、二酸化炭素の排出にともなう温暖化が進行している。永年作物である果樹は、長期にわたり植栽地の環境の影響を受け続けるため、重金属集積や環境条件の悪化は、持続的な果樹生産の大きな妨げとなる。そのため、このような不良環境条件下においても果樹栽培が可能となる環境ストレス耐性を有した果樹の作出に期待が寄せられている。これまでに、スペルミジン合成酵素遺伝子を導入したセイヨウナシ組換え体(#32)の塩、浸透圧耐性について報告したが(平成18年度中課題代表成果)、さらに、セイヨウナシ組換え体(#32)の重金属ストレスに関する知見を得るため、カドミウム、鉛、亜鉛、およびそれらの3種類の重金属を混在したものを含む培地に植え付けて、シュートの伸長と新鮮重の増加量からストレス耐性を評価する。

成果の内容・特徴

  • スペルミジン合成酵素遺伝子を導入したセイヨウナシ組換え体(#32)は、重金属ストレスの条件下で3週間培養すると、シュートの伸長増加量と新鮮重増加量は、ストレスの無い場合に比べて阻害されるものの、その阻害程度は野生型よりも少ない(図1)。
  • 膜の健全性は、#32では膜の脂質の酸化を示す指標であるmalondialdehyde (MDA)値の上昇が野生型よりも有意に少ない(データ省略)。
  • ポリアミン含有量と活性酸素種の消去に係わるglutathione reductase (GR)活性とsuperoxide dismutase (SOD)活性、さらに、MDA値との関係を調べると、いずれの重金属ストレスにおいても特にスペルミジン(Spd)含量と酵素活性(GR、SOD)の間には正の、MDA値とは負の相関関係がある(表1)。
  • 以上のように、スペルミジン合成酵素遺伝子を過剰発現させた組換え体セイヨウナシでは野生型と比較して重金属による生育阻害の程度が軽く、蓄積されたSpdにより重金属ストレスが軽減されることが主原因と考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 結果は全て培養瓶内のシュートを用いて得られたものである。
  • 重金属の種類により差異はあるが、シュート中の濃度は組換え体で少ない傾向がある。
  • 環境不良下に適応したナシの台木として活用できる可能性がある。

具体的データ

図1 野生型(WT)と組換え体(#32)における重金属ストレス処理21日後の茎伸長増加量と茎重増加量の変化

表1 #32と野生型における重金属ストレス時のポリアミン(Put、Spd、Spm)含有量とGR活性、SOD活性、およびMDA値との関係(相関係数)

その他

  • 研究課題名:気候温暖化がもたらす果樹生産阻害要因の解明とその対応技術の開発
  • 中課題整理番号:215a.4
  • 予算区分:基盤、科研費
  • 研究期間:2005年~2009年度
  • 研究担当者:森口卓哉、伴雄介、井上博道、松田成美(山形県園試)
  • 発表論文等:Wenら(2008) Transgenic Research 17:251-263 Wenら(2010) Transgenic Research 19:91-103