モモ果実でのアスコルビン酸含量変化と合成酵素遺伝子の発現

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要約

モモ果実中でのアスコルビン酸含量は、満開後20日程度は約2マイクロモル/グラムだが、成熟果実ではおよそ1/15になる。合成反応に関わる最終6ステップの酵素遺伝子の発現は、初期を除き、果実生育の期間を通じてアスコルビン酸含量とは対応がみられない。

  • キーワード: モモ、アスコルビン酸量、遺伝子発現
  • 担当:果樹研・果樹ゲノム研究チーム
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・育種
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

アスコルビン酸は、ビタミンCとしてヒトの栄養素となるだけでなく、その抗酸化能により、活性酸素の消去や鉄イオン酵素の活性発現、病原微生物の感染防御やホルモンシグナル伝達系への関与など、植物細胞内で多面的な機能を発揮している。ヒトにとって、果実はアスコルビン酸の重要な摂取源であるが、果実における合成については十分解明されていない。栄養価の改善や、植物のストレス耐性の向上にむけた基礎的な知見を得るため、これまで遺伝子解析を行ってきたモモ品種「あかつき」の果実を用いて、アスコルビン酸含量と合成経路最終6ステップの合成酵素遺伝子(GDP-マンノースピロホスホリラーゼ[GMPH]、GDP-マンノースエピメラーゼ[GME]、GDP-L-ガラクトースホスホリラーゼ[GGP]、L-ガラクトース-1リン酸ホスファターゼ[GPP]、L-ガラクトースデヒドロゲナーゼ[GDH]、L-ガラクトノラクトンデヒドロゲナーゼ[GLDH])の発現の関連を調べる。

成果の内容・特徴

  • 単離した6種のcDNA断片(DDBJアクセッション番号AB457581-AB457586)は既知のアスコルビン酸合成酵素遺伝子と高い相同性を示す(データ略)。
  • 満開後約20日までは2~3μmol / gFW程度であるアスコルビン酸含量は果実の発達とともに減少し、満開後約60日には当初の1/10になり、その後もゆっくりと減少を続ける(図1A)。果実の成長とアスコルビン酸含量の変化は異なったパターンを示し、それぞれ3期(Stage I~III)と4期(Asc I~IV)に区分できる(図1A、B)。総アスコルビン酸含量に占める還元型の割合は60~80%程度で、通常90%以上である葉よりも低い。
  • 満開後57日と112日(収穫適期)の果実にL-ガラクトース溶液を与えた後のアスコルビン酸含量の増加を調べた結果、後者では増加量が少なく、合成能が相対的に低下していると考えられる(データ略)。
  • RNAブロット解析の結果を図2Aに示す。GDHの発現は低く、RNAブロット解析は困難であったので、半定量RT-PCRにより発現変化を調べた(図2B)。GMPH、GME、GGPは満開後43日に単一の発現ピークを示す。GPP、GDH、GLDHは満開後21または43日および91日の2つの発現ピークを示す。初期を除き、遺伝子発現は、果実中のアスコルビン酸含量の変化とは一致していない。

成果の活用面・留意点

  • 単離したモモ遺伝子の情報は、リンゴなど発現遺伝子データベースのある他の果樹類におけるアスコルビン酸合成酵素遺伝子の発現解析に利用できる。

具体的データ

図1 モモ品種「あかつき」の果実成長に伴うアスコルビン酸含量の変化。

図2 RNAブロット(A)および半定量RT-PCR(B)による遺伝子発現解析

その他

  • 研究課題名:果樹の育種素材開発のための遺伝子の機能解析及びDNA利用技術の開発
  • 中課題整理番号:221j
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2006年~2009年度
  • 研究担当者:今井 剛、伴 雄介、寺上伸吾、山本俊哉、森口卓哉
  • 発表論文等:Imai et al. (2009) Physiol. Plant. 136: 139-149