常緑性のウンシュウミカンと落葉性のカラタチでは花成遺伝子の発現時期が異なる

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要約

花芽形成の季節周期が大きく異なる常緑性のウンシュウミカンと、落葉性のカラタチでは、花成遺伝子の発現は、それぞれの花成誘導時期に対応して異なる季節変動を示す。

  • キーワード:カンキツ類、花芽形成、遺伝子発現、常緑性、落葉性
  • 担当:果樹研・果樹ゲノム研究チーム
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・育種
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

カンキツ類では、主要な食用果実を産するカンキツ属やキンカン属が常緑性であるのに対し、近縁のカラタチ属は落葉性を示す。ウンシュウミカンなど常緑性のカンキツでは、主に秋冬季の低温によって花成が誘導され、その後徐々に花器官が形成されるが、カラタチでは、他の落葉果樹と同様、夏に花成が誘導された後に続けて花器官が形成され、生じた花芽が冬季の休眠を経て翌春の開花に至る(図1)。 本研究では、近縁種間で花芽形成の季節周期が異なるウンシュウミカンとカラタチを用いて、それらの花芽形成に関連する遺伝子発現の変動を比較し、常緑性および落葉性カンキツ類の季節的な花芽形成制御機構を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • シロイヌナズナの花芽形成の重要な役割を担う、花成促進遺伝子FLOWERING LOCUS T(FT)、花成抑制遺伝子TERMINAL FLOWER 1(TFL1)、花芽運命決定遺伝子LEAFY(LFY)及びAPETALA 1(AP1)(図2)のカンキツ類における相同遺伝子、Citrus FT(CiFT)、C. sinensis TFL1(CsTFL)、C. sinensis LFY(CsLFY)、C. sinensis AP1(CsAP1)について、ウンシュウミカンとカラタチの1年枝中の季節的な遺伝子発現変動を解析すると、花成促進遺伝子CiFTのmRNA量は、ウンシュウミカンでは秋から冬にかけて、カラタチでは初夏に増大し、それぞれの花成誘導時期と発現増大時期が一致する(図3)。
  • 花芽運命決定遺伝子ホモログのCsLFYは、それぞれの花器官形成時期にmRNA量が増大する。また、花成抑制遺伝子ホモログのCsTFLは、ウンシュウミカン及びカラタチの両方で、春枝の伸長時に発現量が高い他は低レベルを維持する。一方CsAP1については、カラタチでは花器官形成時期である初夏に発現増大が認められるが、ウンシュウミカンにおいては、花芽形成の季節変化に対応した発現変動が認められない(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究の成果は、近縁でありながら花芽形成の季節周期が異なるウンシュウミカンとカラタチの両者において、花成誘導時期にCiFT遺伝子の発現増大が、花器官形成時期にCsLFYの発現増大が重要であることを示唆している。
  • CsAP1は、ウンシュウミカンとカラタチの間で花芽形成への寄与が異なることを示唆しており、遺伝子による花成制御機構の解明に重要な情報である。

具体的データ

図1 ウンシュウミカン(上)およびカラタチ(下)の季節的な花芽形成

図2 シロイヌナズナの花成

図3 ウンシュウミカン(左)およびカラタチ(右)1年枝における花成関連遺伝子発現の季節変動

その他

  • 研究課題名:果樹の育種素材開発のための遺伝子の機能解析及びDNA利用技術の開発
  • 中課題整理番号:221j
  • 予算区分:基盤、委託プロ(新事業)
  • 研究期間:2003年~2008年度
  • 研究担当者:遠藤朋子、西川芙美恵、島田武彦、藤井浩、清水徳朗、大村三男(静岡大農)
  • 発表論文等:Nishikawa et al. (2009) Tree Physiol. 29 (7):921-926