クリの新規SSRマーカーの開発と遺伝資源の品種判別

要約

クリのSSR濃縮ライブラリーから109種類のSSRマーカーを開発し、遺伝資源の評価に適した12種類のSSRマーカーを選抜した。12マーカーのSSR解析により、216のクリ遺伝資源は異名同品種の20グループと枝変わりの1グループを含む189の遺伝子型に分類される。

  • キーワード:クリ、SSRマーカー、遺伝子型、異名同品種
  • 担当:果樹・茶・ナシ・クリ等
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 研究所名:果樹研究所・品種育成病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

果樹研究所ではチュウゴクグリやヨーロッパグリ等、様々な種の200品種以上のクリ遺伝資源が保存されているが、来歴の情報や導入記録が乏しいものが多く、異名同品種の存在が示唆されている。近年、ニホングリの品種判別が可能なSSRマーカーセットが開発されており、主要なニホングリ60品種において親子の間違いや異名同品種の存在が報告されている。しかし、チュウゴクグリやヨーロッパグリなど他の種の評価も可能なマーカーセットは報告されていない。そこで、種横断的に解析可能な新規のSSRマーカーを開発し、クリ遺伝資源の品種判別を行い品種育成に資することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • ニホングリ由来のSSR濃縮ライブラリーから109種類のSSRマーカーを開発し、この中から選抜した12種類のSSRマーカーは、高い多型性と明確なバンドパターン示し、品種判別や遺伝資源評価に適する(図1)。
  • 選抜した12種類のマーカーは、チュウゴクグリやヨーロッパグリなどの他の種にも適用可能である(図1)。
  • 12種類のSSRマーカーを用いて216のクリ遺伝資源品種を評価した結果、189の異なる遺伝子型が存在し、この中で複数の品種を含む遺伝子型は21グループである。そのうち、20のグループでは品種間で形態の差異がみられないことから異名同品種であると推定される。一方、「雲竜(「筑波」の枝変わりとされる)」と「筑波」は枝や雄花穂の形態が明確に異なることから枝変わりであると判断される(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 109種類のSSRマーカーは、クリの遺伝地図の作製、重要形質のマッピング等に利用することができる。
  • 開発した109種類のSSRマーカーの塩基配列情報は、公的遺伝子データベースに登録済みである。
  • 異名同品種や枝変わり品種の情報が整理され、育種における交配親の選定に活用可能である。
  • 枝変わり品種と原品種の品種判別については、遺伝子型が同一であるため本マーカーセットは利用できない。
  • SSRマーカーの解析と遺伝子型の判定には、DNAシーケンサーを用いるのが望ましい。

具体的データ

 表1 SSRマーカーPRD2、PRA86の波形図
表1 12種類のSSRマーカーの解説で同一遺伝子型を示したグループ

(西尾聡悟)

その他

  • 中課題名:高商品性ニホンナシ・クリ及び核果類の品種育成と省力生産技術の開発
  • 中課題番号:142a0
  • 予算区分:交付金、実用技術
  • 研究期間:2008~2011年度
  • 研究担当者:西尾聡悟、山本俊哉、寺上伸吾、澤村 豊、高田教臣、齋藤寿広
  • 発表論文等:Nishio et al. (2011) Breed. Sci. 61:109-120