SSRマーカーによる栽培および台木用リンゴ品種の判別と親子鑑定

要約

15種類のSSRマーカーによって、栽培リンゴ120品種・系統、台木及びリンゴ属近縁種17品種を判別することができる。また、本SSRマーカーを用いて、親子関係の検証が可能である。

  • キーワード:リンゴ、SSRマーカー、品種判別、親子鑑定
  • 担当:果樹・茶・リンゴ
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 研究所名:果樹研究所・リンゴ研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

リンゴは日本で最も生産額の多い落葉果樹であり、近年、多数の新品種が公的機関および民間によって育成・品種登録されている。このような登録品種は海外への違法な流出など権利侵害の恐れがある。また、台木用リンゴ属近縁種(Malus spp.)は外見上の違いから品種を判別しがたく、苗木出荷の際に混乱を生じる恐れがある。そこで、登録品種の権利侵害に対する抑止、また、リンゴ品種の正確な判別のために、栽培リンゴおよび台木用リンゴ属近縁種についてDNA品種判別技術を開発する。さらに、得られたデータを用いて、品種の親子関係を明らかにすることで交雑育種の高度化を図る。

成果の内容・特徴

  • リンゴDNA配列から開発され、単一座から増幅するSSRマーカー46種類から選抜した15種類のマーカーが、品種判別用のマーカーとして適する(表1)。選抜したマーカーは品種判別に必要な5条件、(1)栽培リンゴ、台木用リンゴのいずれにおいても明瞭な増幅を示す、(2)非特異的増幅産物がない、(3)アリルの判別が容易、(4)Nullアリルがない、(5)連鎖地図上で互いに独立もしくは約40cM以上離れて連鎖する、を満たす。
  • 15種類のSSRマーカーによって、栽培リンゴ120種、台木用リンゴ属近縁種17種からなる全137品種・系統を判別することができる(表2)。137品種・系統について、少なくとも1個のSSRマーカーで異なる遺伝子型を示すマーカーセットはCH02b10、CH02g09、CH04d10、CH03d07の4マーカーからなる。
  • 調査した137品種・系統とは由来の異なる異品種を、今回選抜した15種類のSSRマーカーを用いて判定した際、調査した137品種・系統の中のいずれかと遺伝子型が一致する確率は、最も高い場合でも500億分の1であり、極めて低い。
  • 15種類のSSRマーカーのアリルの遺伝から、交雑育種によって育成された「きざし」、「ちなつ」、「ハックナイン」、「ハニークイーン」、「盛岡48号」において、記載されている来歴とは異なる親子関係が推定できる(表3)。また、自然交雑実生に由来する「おぜの紅」、「青林」、「はるか」の花粉親を推定できる(表4)。

成果の活用面・留意点

  • 本法による親子鑑定を行うことで、リンゴ品種・系統の来歴を推定することが可能になり、交雑育種において交配親を選択する際の有用な基礎資料となる。
  • 本法において、枝変わり品種は原品種と同じ遺伝子型を示すため、枝変わり品種かどうかを判別することはできない。
  • 本法による品種判別は、果実や加工品(ジュース等)から抽出したDNAでも適用可能である。
  • 本法で採用したSSRマーカーを用いて得られたPCR増幅産物を電気泳動する際は、DNAシーケンサーを利用する必要がある。

具体的データ

表1.品種判別に用いるSSRマーカーの概要
表2.判別可能なリンゴ品種・系統
表3.知られている来歴と異なる親子関係を推定できる品種・系統
表4.花粉親が推定できる自然交雑実生由来の品種

(森谷茂樹)

その他

  • 中課題名:高商品性リンゴ等品種の育成と省力生産技術の開発
  • 中課題番号:142e0
  • 予算区分:農水委託、交付金
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:森谷茂樹、岩波宏、岡田和馬、山本俊哉、阿部和幸
  • 発表論文等:Moriya et al. (2011) Euphytica 177:135-150