DNAマーカー分析の省力・低コスト化を可能にする1チューブ多重ポストラベル法

要約

特異性の高いタグ配列をDNAマーカーに付加し、蛍光色素標識した同じタグ配列を持つプライマーを事前に加えてPCRを行うことで、最大6種類のDNAマーカーを1チューブ内で個別に標識することが可能である。

  • キーワード:DNAマーカー、遺伝解析、蛍光標識、低コスト、省力化
  • 担当:果樹・茶・果樹ゲノム利用技術
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 研究所名:果樹研究所・カンキツ研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

蛍光色素で標識したオリゴDNAプライマーを利用してDNAシーケンサーで多型を分析する手法は、SSRマーカーなど、高精度なDNAマーカー分析で広く利用されている。しかし高価な蛍光標識プライマーをDNAマーカーごとに合成する必要があり、カンキツを含む果樹のDNAマーカー分析全体のコストを押し上げる要因となっている。増幅反応後に蛍光色素で標識するポストラベル法は低コストな分析法としていくつか知られているが、増幅産物の標識に煩雑な作業を必要とする。そのため、複数の増幅産物を追加作業なしで一度に標識することができる、低コストで簡便なDNAマーカー分析法の開発に取り組む。

成果の内容・特徴

  • 16bpのタグ配列(BStag;表1)を5’末端に付加したDNAプライマーと、付加したBStagと対応する蛍光標識したBStagオリゴプライマーおよび対象DNAを混合してPCRを行う。増幅反応後に引き続き49℃、3サイクルのPCR(約3分間)を行うことで増幅産物が蛍光標識される。標識に必要な試薬を反応開始前にすべて加えておくことで、従来のポストラベル法で必要な標識試薬の追加や、DNAマーカーごとの標識と混合のための1時間程度の作業を、約3分間に短縮することができる(図1)。
  • BStag配列は特異性が高く、1チューブに複数のマーカーを加えて同時に標識しても目的の蛍光色素でのみ標識され、誤標識されない。異なるBStag配列を付加したマーカーは、最大6種類まで同時に標識することができる。タグ配列の付加がDNAマーカーの分析結果に影響を及ぼさないよう、BStag配列がカンキツやリンゴ、ニホンナシ等の主要果樹を含む12種の植物で増幅産物を生じないことを確認している(表2)。
  • DNAマーカーの合成コストは蛍光標識マーカーの場合の十分の一以下で、使用するマーカー数が多くなるほどコスト削減効果が高い。また複数のDNAマーカーを個別に標識するためのプラスチック消耗品が不要となり、分析経費と時間を削減できる。
  • DNAシーケンサーを用いるSSRマーカー分析、SNPマーカー、挿入・欠失(indel)型マーカー解析等の低コスト分析に利用することができる。蛍光色素が異なるタグプライマーを複数用意することで、DNAマーカーと蛍光色素の組合せを自由に変更することができる。

普及のための参考情報

  • 普及対象  果樹等のDNAマーカー選抜・品種判別などを行う研究・検査機関従事者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 蛍光標識プライマーをDNAマーカー分析に利用している研究・検査機関
  • その他  論文に900件のアクセス実績あり

具体的データ

図1 原理の異なる3種類の蛍光標識法の比較

表1 BStagとその配列表2 BStagで増幅産物を生じない植物種

(清水徳朗)

その他

  • 中課題名:果樹におけるDNAマーカー育種のための高度基盤技術の開発
  • 中課題番号:142g0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(安信、気候変動)
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:清水徳朗、矢野加奈子
  • 発表論文等:Shimizu, T and K. Yano (2011) BMC Res. Notes. 4:161 (doi:10.1186/1756-0500-4-161)