温州萎縮ウイルスの2分節ゲノムを標的とした高精度診断法
要約
温州萎縮ウイルス(SDV)の2分節ゲノムRNAの共通保存配列を標的として設計したユニバーサルプライマーを用いた1ステップRT-PCRにより、簡易かつ高精度にSDVを遺伝子診断できる。本法は既知のSDV全4系統に対応しており、多様な変異株が検出できる。
- キーワード:温州萎縮ウイルス、ユニバーサルプライマー、1ステップRT-PCR、遺伝子診断、高精度
- 担当:環境保全型農業・生物的病害防除
- 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
- 研究所名:果樹研究所・ブドウ・カキ研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
温州萎縮ウイルス(SDV)は、ウンシュウミカン等の樹勢を弱め、果実品質にも悪影響を与えるウイルスである。接木伝染の他、土壌伝染するとされ、防除には無毒母樹の利用が第一である。これまでに診断法として、RT-PCRによる遺伝子診断法や抗体を利用した簡易検定法が開発されてきた。しかし、SDVにはSDV系統の他、カンキツモザイクウイルス(CiMV)、ネーブル斑葉モザイクウイルス(NIMV)、ヒュウガナツウイルス(HV)の全4系統が知られ、これらの系統を安定して検出できる診断法の開発が望まれていた。そこで、RT-PCRに用いるプライマーの設計部位や配列を工夫し、SDV全4系統の検出が可能な高精度診断法を開発することを目的とする。
成果の内容・特徴
- 既知のSDV全4系統(SDV、CiMV、NIMV、HV)の2分節ゲノムRNAの3’末端に共通した保存領域を標的としてユニバーサルプライマーuSDVup/uSDVdoを設計する(図1)。理論上、2分節ゲノムRNAの片方だけを標的とするよりも標的の量が多くなり、検出感度の向上が期待できるだけでなく、仮に、片方に変異が起きても対応可能であることも期待できる。
- 市販のRNA抽出試薬あるいはサンドペーパー法(2006年度果樹研究成果情報)等で抽出したRNAを鋳型に、OneStep RT-PCR Kit(Qiagen)とuSDVup/uSDVdoプライマーを用いて、逆転写反応とPCRを連続して行う1ステップRT-PCRを行う。その後、アガロースゲル電気泳動により特異的増幅産物を確認できる(図2)。
- uSDVup/uSDVdoプライマーと、既報のSDVプライマー(Ito et al., 2007; Iwanami, 2010)による1ステップRT-PCRを比べたところ、uSDVup/uSDVdoを用いた場合が最も多くSDVを検出できる(図3)。その増幅産物の塩基配列を解析したところ、CiMV系統の未知変異株(GenBank accession no. AB639137-AB639139)も確認でき、これまで以上に多様な変異株に対応した高精度な検出が可能と考えられる。
成果の活用面・留意点
- 本法は、試験研究機関等におけるウイルス検定や母樹検疫に利用可能であり、SDV無毒苗木の供給に役立つことから、カンキツの安定生産に寄与することが期待される。
- uSDVup/uSDVdoプライマーは、逆転写反応とPCRを別々に行う2ステップRT-PCRにも利用可能である。
- uSDVup/uSDVdoプライマーによる増幅産物より得られる塩基配列情報は、SDV変異株の多様性を解析するための有用な手掛かりとなる。
- 擬陽性反応を除外するために、陽性(SDV保毒試料)と陰性(健全試料)の対照を加えて検定を行うことが望ましい。
具体的データ
(伊藤隆男)
その他
- 中課題名:生物機能等を活用した病害防除技術の開発とその体系化
- 中課題番号:152a0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2006~2010年度
- 研究担当者:伊藤隆男、伊藤 伝、清水伸一(愛媛果樹研)、三好孝典(愛媛果樹研)、橘 泰宣(愛媛果樹研)
- 発表論文等:Shimizu, S. et al. (2011) J. Gen. Plant Pathol. 77:326-330