リンゴ「つがる」では予冷することで1-MCP処理による鮮度保持効果が高まる
要約
早生リンゴ「つがる」では、収穫時において多量のエチレンが生成しているため、1-MCP処理による果肉硬度維持等の鮮度保持効果は低いが、予冷によりエチレン生成量を減少させた後、1-MCP処理を行うと、1-MCP処理による鮮度保持効果が高まる。
- キーワード:リンゴ、1-MCP、貯蔵、低温処理
- 担当:加工流通プロセス・品質評価保持向上
- 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
- 研究所名:果樹研究所・栽培・流通利用研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
エチレン作用阻害剤である1-メチルシクロプロペン(1-MCP)は、リンゴに対し鮮度保持効果を示す。しかし、この効果は、品種、収穫時期、果実熟度、処理条件等により大きく異なり、1-MCP処理時のエチレン生成量が多いと低下する。リンゴの早生品種「つがる」は収穫時にすでにエチレンを多量に生成していることから、1-MCP処理による鮮度保持効果は他品種と比較して低い。そこで、エチレン生成の抑制効果が期待できる予冷処理が、収穫後の「つがる」果実における1-MCPの鮮度保持効果に与える影響について検討する。
成果の内容・特徴
- 果実(144果実、37kg)を、-3°C設定の壁面冷却式冷蔵庫(氷蔵庫、容量285L)に入れ予冷を行うと、果実内部の温度は約20時間後に-1~-1.5°Cまで下がる(データは示していない)。
- 収穫1日後の果実のエチレン生成量は、66nL/g新鮮果実重/時間であるが、予冷後には、15.8nL/g新鮮果実重/時間に減少する(図1)。
- 1-MCP処理をした果実は、1-MCP無処理果実より、果肉硬度、滴定酸度が高く保たれる傾向にあり、特に、予冷後に1-MCP処理を行った果実では、最も高い値を示す(図2、滴定酸度のデータは示していない)。
- リンゴで報告されているエチレン受容体遺伝子6種類のうち、4種類の遺伝子(MdETR1a, MdETR1b, MdETR2, MdETR5)の発現量は、予冷直後の果実において、無予冷果実よりも、一過的に高い(図3)。
- 鮮度保持効果の向上は、予冷によりエチレン生成量が一過的に減少し、さらに低温ストレスを受けエチレン受容体遺伝子等の発現量が一過的に増加することで、1-MCPがエチレン受容体により多く結合できる条件となるためと推測される。
成果の活用面・留意点
- 予冷により、果実内部の温度を-1~-1.5°C程度まで、確実に冷やすことが重要である。実際の利用に際しては、冷蔵庫の冷却方式や容量、果実搬入量等によって、果実内部の温度の下がり方が異なるため、果実の凍結を回避し、さらに果実内部の温度を確実に冷却できる予冷条件の検討が必要である。
具体的データ
(立木美保)
その他
- 中課題名:農畜産物の品質評価・保持・向上技術の開発
- 中課題番号:330a0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2009~2011年度
- 研究担当者:立木美保、羽山裕子、吉岡博人、中村ゆり
- 発表論文等:Tatsuki et al. (2011) Postharvest Biol. Technol. 62:282-287.