地表面管理の異なるリンゴ園における放射性セシウムの蓄積
要約
原発事故発生当年は、地表面管理の異なるリンゴ園に栽培したリンゴ樹の放射性セシウム濃度に明らかな差は認められない。中耕により、再生した雑草等の地表面有機物に含まれる放射性セシウム量は減少し、土壌下層の濃度が高まる傾向がある。
- キーワード:リンゴ、放射性セシウム、地表面管理、園地内分布
- 担当:果樹・茶・ナシ・クリ等
- 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
- 研究所名:果樹研究所・栽培・流通利用研究領域
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質のうち、半減期が長く広範囲に汚染が広がった放射性セシウムについて、果樹における果実への移行に関する調査を行う。放射性セシウムは地表面近くの土壌に吸着されること、ゼオライトに吸着されることなどが知られているため、地表面管理の違いが事故発生年の土壌等における放射性セシウムの園地内分布と樹体内濃度に与える影響を調査し、果樹における果実への移行・蓄積に関する基礎資料とする。
成果の内容・特徴
- リンゴ樹の放射性セシウム濃度は、原発事故発生時に存在していた2年枝や3年枝で高い傾向を示し、果実では低い。果実の濃度に対する地表面管理の影響は認められない。枝の濃度は樹による差が大きい(表1)。
- 土壌中の放射性セシウム濃度は、深さ5cmまでの地表面付近が高い。原発事故発生後の地表面の中耕により、慣行区と比較して深さ15cmまでの下層の濃度が高まる(表1)。
- 中耕後に発生した雑草等地表面有機物に含まれる放射性セシウム量は、慣行区、草生区及びゼオライト区と比較して少ない(表1)。
- 慣行区と比較して、原発事故発生後、樹冠下に10aあたり300kgのゼオライトを施用した処理による事故発生年のリンゴ樹、土壌等の放射性セシウム濃度への影響は認められない(表1)。
- 放射性セシウム濃度から算出した土壌から果実への見かけの移行係数は、0.012~0.043であり、海外における既存のデータ(0.00086~0.037)に比して値が高い。見かけの移行係数は、【果実中の放射性物質濃度(Bq/新鮮重kg)/土壌の放射性物質濃度(Bq/乾土kg)】で算出され、2年枝、3年枝の放射性セシウム濃度が高かったことから、事故発生当年は、枝など樹体に直接付着した放射性物質の果実への移行が、見かけの移行係数に影響していると考えられる。
普及のための参考情報
- 普及対象 行政機関等、リンゴ生産者
- 普及対象・普及予定面積・普及台数等 国内の放射能汚染が懸念されるリンゴ栽培地域
- その他 地表面の中耕により、下層土壌(0-15cm)のセシウム濃度が高まる傾向が認められることから、リンゴ樹の経根吸収が促進される可能性がある。
具体的データ
(草塲新之助)
その他
- 中課題名:高商品性ニホンナシ・クリ及び核果類の品種育成と省力生産技術の開発
- 中課題番号:142a0
- 予算区分:科学技術戦略推進費
- 研究期間:2011年
- 研究担当者:草塲新之助、佐久間宣昭(福島県農総セ)、安部充(福島県農総セ)、木方展治(農環研)
- 発表論文等:草塲ら(2012) 農業及び土壌の放射能汚染対策技術国際研究シンポジウム要旨、157