ニホンナシとチュウゴクナシの栽培品種は遺伝的に極めて近縁である

要約

ニホンナシとチュウゴクナシの栽培品種の間の遺伝的多様性は、野生個体群の持つ遺伝的多様性よりも遙かに小さいので、これらのナシは遺伝的に極めて近縁である。

  • キーワード:ニホンナシ、チュウゴクナシ、栽培品種の分類、集団遺伝学
  • 担当:果樹・茶・ナシ・クリ等
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・品種育成・病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

東アジア地域で果樹として栽培されるナシ属植物は、作物名としてはニホンナシとチュウゴクナシに区分され、生物学的種としてはPyrus pyrifoliaP. bretschneideri、及びP. ussuriensisに区分されている。しかし、栽培品種の分類は形態や農業形質などの表現型が多様で連続するため、個々の品種を特定の種に区分することは困難である。そこで、集団遺伝学手法で遺伝的多様性を解析して品種間の類縁関係を推定し、これを基にして集団間の相対的な遺伝的距離や遺伝的多様性の程度を考慮することにより、東アジアのナシ属栽培植物を分類することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 18種のマイクロサテライト遺伝子座の解析により日本、朝鮮半島、中国の栽培品種及び野生個体群の計181品種・系統を材料として、集団間の遺伝距離を推定したところ、栽培品種の集団間の遺伝距離は、複数の種に区分されるにもかかわらず、P. ussuriensis1種の野生集団間の遺伝距離に比べて遙かに小さいことが推定される(図1)。
  • 従来P. ussuriensisおよびP. bretschneideriの2種に分類されてきた中国、朝鮮半島の栽培品種は、P. ussuriensis野生個体群とP. pyrifoliaの両集団の雑種に起源することが示唆される(図1)。また、東アジアのナシ属栽培植物の分化は、野生植物の種分化ではなく、人為的選択等による栽培植物としての分化であると推定する。

成果の活用面・留意点

  • 東アジアのナシ属栽培植物は、生物学的な種ではなく品種群(Group)として分類すべきである。
  • 農学研究において、東アジアのナシを形質の進化などの生物学的な観点から研究する際には、遺伝的多様性の狭い栽培植物だけの比較では不十分であり、野生植物も考慮すべきである。
  • これまでにない形質を持つ遺伝資源の探索対象としての、野生個体群の重要性が明らかになり、これらを利用した研究の展望が開かれる。

具体的データ

 図1

その他

  • 中課題名:高商品性ニホンナシ・クリ及び核果類の品種育成と省力生産技術の開発
  • 中課題番号:142a0
  • 予算区分:科研費、ジーンバンク
  • 研究期間:2006~2012年度
  • 研究担当者:池谷祐幸、間瀬誠子、山本俊哉、佐藤義彦、片山寛則(神戸大農)、植松千代美(大阪市立大理)
  • 発表論文等:Iketani H. et al. (2012). Plant Syst. Evol. 298: 1689-1700.