成熟期ブドウ果粒への低温と光の同時処理は相乗的に果皮の着色を促進する

要約

ブドウ果皮のアントシアニン含量は、低温と光の同時処理により相乗的に高くなる。また、アントシアニン合成関連遺伝子群の発現は温度と光に対して異なる反応を示すが、VlMYBA1-3およびF3'5'Hの遺伝子発現量とアントシアニン含量との間に相関がある。

  • キーワード:アントシアニン、温度、光、ブドウ
  • 担当:果樹・茶・ブドウ・カキ
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・ブドウ・カキ研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ブドウ果皮の着色(アントシアニン合成)には、果実成熟期の温度や光など、複数の環境要因が関与することが知られているが、これらの相互関係について解析された例は少ない。そこで、ブドウ培養果粒を用いて、温度と光を組合せた処理がアントシアニンの蓄積に及ぼす影響を明らかにする。また、温度や光を利用したブドウの着色不良対策技術の開発に向けて基礎的知見を蓄積するため、温度と光を組合せた処理がアントシアニン合成関連遺伝子群の発現に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 成熟期のブドウ「ピオーネ」果粒を温度条件(15、35°C)と光条件(暗黒、白色光照射)を組合せた人工気象器内で10日間培養すると、低温処理(15°C)と明処理(白色光照射)を同時に行うことによって果皮アントシアニン含量が相乗的に高くなる(図1)。一方、高温処理(35°C)、暗黒処理のいずれかを行うとアントシアニンはほとんど蓄積しない。
  • アントシアニン合成を制御する3つのMYB様転写因子遺伝子のうち、VlMYBA1-3の遺伝子発現は高温、暗黒のいずれかの処理を行った条件で著しく低く、アントシアニン含量と相関がある(図2)。一方、VlMYBA2の遺伝子発現は高温処理条件で低く、VlMYBA1-2の遺伝子発現は暗黒処理条件で著しく低い。
  • アントシアニン合成の抑制に関与するとされている転写因子遺伝子MYB4の遺伝子発現は、光の有無に関わらず高温処理条件で高い(図2)。
  • アントシアニン合成に関与する遺伝子のうち、CHS3OMTの遺伝子発現は高温処理条件で著しく低いが、F3'5'Hの遺伝子発現はアントシアニン含量と同様に、高温、暗黒のいずれかの処理を行った条件で著しく低い(図2)。F3'Hの遺伝子発現は高温処理と暗黒処理を同時に行った条件で低い。また、antho-MATEの遺伝子発現は、光の有無に関わらず高温処理条件で低い。
  • 以上のように、アントシアニン合成関連遺伝子群の遺伝子発現は、温度と光に対してそれぞれ異なる反応を示す。

成果の活用面・留意点

  • 気候変動によるブドウ着色不良の発生機構の解明につながる。
  • 温度や光を利用したブドウの着色不良対策技術の開発に資する基礎的知見となる。
  • ブドウ培養果粒において得られた成果であるため、今後はポット樹などを用いた検証が必要である。

具体的データ

 図1~2

その他

  • 中課題名:高商品性ブドウ・カキ品種の育成と省力生産技術の開発
  • 中課題番号:142b0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(光野菜)
  • 研究期間:2009~2012年度
  • 研究担当者:東暁史、薬師寺博、児下佳子、小林省藏
  • 発表論文等:Azuma A. et al. (2012) Planta 236:1067-1080