カンキツにおけるダイレクトPCR法
要約
カンキツの葉を突いた爪楊枝をPCR反応液に浸すことでダイレクトPCRを行うことができる。また、葉を突いた爪楊枝をTE0.2バッファーに浸すとDNAサンプルを作成することもできる。これにより、DNA抽出に要する時間、実験機器および消耗品類を大幅に削減できる。
- キーワード:カンキツ、DNAマーカー分析、ダイレクトPCR、DNA抽出、爪楊枝
- 担当:果樹・茶・カンキツ
- 代表連絡先:電話 029-838-6453
- 研究所名:果樹研究所・カンキツ研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
近年、カンキツ育種実生の早期選抜や品種識別のためにDNAマーカーを用いる機会が増えてきた。しかしながら、分析には多くの時間がかかり、高額な機器や試薬等の消耗品が必要であった。特に木本植物のDNA抽出においては、多糖類やポリフェノールなどのPCR阻害物質を取り除くために多くの工程が必要であった。そこで本研究では、カンキツにおけるダイレクトPCR法の開発に取り組んだ。
成果の内容・特徴
- 緑化直後のカンキツ葉を爪楊枝で突き刺し、それをPCR反応液に浸すことによりダイレクトPCRを行うことができる(図1)。また、葉を突いた爪楊枝をTE0.2バッファー(10 mM Tris-HCl pH 8.0 and 0.2 mM EDTA)に浸すことでPCRが可能なDNAサンプルを作成することもできる(超簡易DNA抽出法とする)。いずれの場合も、純度の低いDNAサンプルからのPCR増幅が可能な遺伝子増幅用試薬を用いる。
- ダイレクトPCR法および超簡易DNA抽出法によるPCRの成功率は平均96%である(表1)。
- これにより95サンプルのPCRを開始するまでに要する時間を1.5~2時間(2006年成果情報;簡易で迅速なカンキツのDNAマーカー分析法、の10分の1以下)に短縮できる(図1)。また、サンプル破砕装置、遠心機、ヒートブロックなどの高額な実験機器が不要で、DNA抽出に用いる試薬やプラスチック製品などの消耗品も節約できる。
成果の活用面・留意点
- 育種実生の早期選抜、苗木や穂木の品種判別に用いられている。
- 1つのDNAマーカーについて素早く結果を得たい場合にはダイレクトPCRを、複数のDNAマーカーの場合には超簡易DNA抽出法を行うと効率が良い。
- DNA抽出に向いた健全な葉であれば、成葉や旧葉も利用できる。
- この方法により比較的長い500-1200bpのDNAマーカーの増幅が可能である。
- サンプルの採取時期や実験条件の検討を行うことにより、カンキツ以外の木本植物(クリ、マンゴー、ナシなど)でも利用可能である。
具体的データ
その他
- 中課題名:成熟期の異なる良食味カンキツ品種の育成と省力生産技術の開発
- 中課題番号:142c0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2008~2012年度
- 研究担当者:太田智、矢野加奈子(契約職員等)、栗田恭伸(愛知農試)、喜多正幸、清水徳朗、吉岡照高、根角博久
- 発表論文等:1)Ohta et al. (2013) J. Japan. Soc. Hort. Sci. 82: 14-21