高糖度カンキツ果実生産に必要な乾燥による水分ストレス付与の時期

要約

早生ウンシュウミカン、「はれひめ」および早期収穫の「不知火」は、果実に果汁が蓄積し始める時期から約2ヶ月間、乾燥による適度な水分ストレスを樹体に付与することにより、効果的に高糖度の果実を生産できる。

  • キーワード:早生ウンシュウミカン、「はれひめ」、「不知火」、積算水分ストレス
  • 担当:果樹・茶・カンキツブランド化
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・カンキツ研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

カンキツ類は、一般的に乾燥による水分ストレスを樹体に付与することで、果汁内の糖含量が増加する。それにより生産される良食味の果実は、ブランド果実として高単価で取引されるため、効果的に高糖度果実を生産するための水分ストレス付与時期を明らかにすることが求められている。従来は多数の異なる乾燥処理区を設けた試験により、効果的な水分ストレス付与時期の特定を試みてきたが、判然としない結果が多い。そこで、複数年の試験における積算水分ストレスを時期別に算出し、果汁糖度や酸度との相関関係を解析することにより、カンキツの効果的な樹体への水分ストレス付与の時期を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 対象期間における積算水分ストレス(Sψ)は、葉内最大水ポテンシャル(ψmax)を用いて、下記の式によって算出する。
    式
  • 複数年の時期別の積算水分ストレスと果汁糖度・酸度との相関分析による相関係数と回帰直線の傾きから、水分ストレスによる増糖効果と減酸の影響が明らかとなる(表1)。早生ウンシュウミカンは7月中旬から10月以降まで、「はれひめ」は8月から10月まで、「不知火」は8~9月までの期間、積算水分ストレスと増糖量との間に有意な正の相関が得られたことから、この期間の水分ストレスには増糖効果が認められる。また、早生ウンシュウミカンは7月中旬~8月が10月に比べて、「はれひめ」は8月が10月に比べて増糖量との回帰直線の傾きの値が有意に高いことから、増糖効果の高い時期であると認められる。減酸量との間には、「はれひめ」では10月と11月以降、「不知火」では8~9月に有意な負の相関が得られたことから、この期間の水分ストレスは減酸を抑制する。
  • 複数年の結果より、増糖効果が認められる水分ストレス付与の開始時期は、試験地(長崎県南島原市)における各品種の果実に果汁が蓄積し始める時期と一致する。
  • これらの結果を受けて、時期別に水分ストレスを付与すると、早生ウンシュウミカンは、7月中旬~9月の約2ヶ月の水分ストレス(ψmax:-0.7~-1.0MPa)付与により、糖度12度以上で適正な酸度(約0.8%)の果実が生産できる(図1-A)。「はれひめ」は8~9月の水分ストレス(ψmax:-0.7~-1.0MPa)付与により、早期収穫の「不知火」では8~9月の水分ストレスにより、糖度13度以上の果実が生産できる(図1-B、C)。

成果の活用面・留意点

  • 目標とするブランド果実生産に対して、乾燥による水分ストレス付与の適期が分かる。
  • 産地間で異なる生育ステージの調整は、果実に果汁が蓄積し始める時期を目安に行うとよい。
  • 果実生育期間中の乾燥ストレス付与は、果実肥大を抑制させることに留意する。

具体的データ

 表1,図1

その他

  • 中課題名:カンキツのブランド化支援のための栽培情報の高度利用生産技術と園地整備技術の開発
  • 中課題番号:142d0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2007~2012年度
  • 研究担当者:岩崎光徳、深町浩、西川芙美恵
  • 発表論文等:
    1)岩崎ら(2011)園学研. 10(2): 191-196.
    2)岩崎ら(2012)園学研. 11(3): 327-335.