リンゴの酸含量の遺伝は主働遺伝子と微働遺伝子の混合モデルにより説明できる

要約

リンゴ果実の酸含量の遺伝には、主働遺伝子(効果の大きい一つの遺伝子)と、微働遺伝子(効果の小さい遺伝子)の両方が関与している。微働遺伝子の作用の大きさは、主働遺伝子の作用を除いた残りの変動の4割にあたる。

  • キーワード:リンゴ、育種、酸、遺伝
  • 担当:果樹・茶・リンゴ
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・リンゴ研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

リンゴの食味は甘味と酸味のバランスで決まり、生食用としては甘い品種が好まれるが、その場合は糖度が高いものというよりは酸味の少ない品種が選ばれている。一方、貯蔵した果実は酸味が減り、ただ甘いだけのぼやけた味となることから、貯蔵販売する場合には酸味の多い品種が有利となる。また、菓子の材料やジュース原料にする場合は酸味が多いことが必須条件である。このように、リンゴにおいて酸味は販売方法や使用目的を決定する重要な要素である。そこで、目的に応じた酸含量の品種を効率的に育成するために、酸含量の遺伝様式を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • リンゴ交配実生集団の酸含量の値は連続的に分布するが、組み合わせによっては中間親値(両親の平均値)から大きく離れた実生が得られ、微働遺伝子による累積的効果だけでは酸の遺伝を説明できない(図1)。
  • 一つの主働遺伝子の存在を仮定すると、両親の表現型から大きく外れた酸含量の分布も説明できることから(aa遺伝子型実生)、酸の遺伝には主働遺伝子と微働遺伝子の両方が関与していると考えられる(図1)。
  • 主働遺伝子の遺伝子型値からの酸含量の分布のずれは微働遺伝子の作用による。主働遺伝子の作用を除いても、実生の酸含量の変動の4割に微働遺伝子の作用が認められる(h2=0.43)(表1)。
  • 酸含量の表現型が同様の値でも主働遺伝子の遺伝子型が異なる品種があるので(表2)、交配親を決める際は表現型だけでなく遺伝子型を考慮することが重要である。

成果の活用面・留意点

  • フリーのソフトウエアであるPAP(Pedigree Analysis Package)を用いることで、交配集団の家系情報と親と子の表現型値のみから、親品種の主働遺伝子の遺伝子型を推定することができる。
  • 分離比分析により推定できる主働遺伝子数は1つまでである。また、主働遺伝子(と環境変異)のみで説明できる分布の場合の遺伝子型と遺伝子型値の推定も可能である。

具体的データ

 表1~2,図1

その他

  • 中課題名:高商品性リンゴ等品種の育成と省力生産技術の開発
  • 中課題番号:142e0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011-2012
  • 研究担当者:岩波宏、森谷茂樹、岡田和馬、土師岳、阿部和幸
  • 発表論文等:Iwanami H. et al. (2012) Plant Breed. 131:322-328