レトロトランスポゾン挿入多型に基づくニホンナシの品種特異的DNAマーカー

要約

レトロトランスポゾン配列および隣接するナシのゲノム配列から開発した22種類のレトロトランスポゾン挿入多型マーカーのうち、3種類を利用して「豊水」を他の品種から識別することができ、ニホンナシ品種特異的DNAマーカーが作成可能である。

  • キーワード:ニホンナシ、レトロトランスポゾン、DNA品種識別、品種特異的DNAマーカー
  • 担当:果樹・茶・果樹ゲノム利用技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・品種育成・病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

レトロトランスポゾンは可動遺伝因子の一種であり、多くの真核生物組織のゲノム内に普遍的に存在する。自分自身をRNAに複写した後、逆転写酵素によってDNAに複写されてから新たな場所に挿入することで転移する。ゲノム中に散在し、コピー数が多く、また転移してゲノムに挿入された後に安定に保持されるので、品種特異的なDNAマーカーやゲノムワイドなDNAマーカーを作成するための候補配列として着目されている。 次世代シーケンサ解析で得たニホンナシ品種「豊水」の塩基配列データを基に、レトロトランスポゾン配列および隣接するナシのゲノム配列から、レトロトランスポゾン挿入多型に基づくマーカーを作成することにより、品種特異的DNAマーカーの開発を行う。

成果の内容・特徴

  • コピア型レトロトランスポゾンPpcrt4のLTR(long terminal repeat)配列および隣接するナシのゲノム配列を基に22種類のレトロトランスポゾン挿入多型に基づくマーカーを開発した(図1、図2)。
  • 開発した22種類のレトロトランスポゾン挿入多型に基づくマーカーを用いて、ニホンナシ、チュウゴクナシおよびセイヨウナシを含む合計80品種についてDNA多型解析を行ったところ、3種類のDNAマーカーセット(TsuRTP001, TsuRTP002, TsuRTP010などの組合せ)によって「豊水」を他のナシ品種から識別可能である。
  • 22種類のレトロトランスポゾン挿入多型に基づくマーカーにより、ニホンナシ64品種のうち61品種の識別が可能である。
  • 16種類のマーカーは「豊水」の連鎖地図上に位置付けられ、10の連鎖群に分散し、いくつかのマーカーは同一連鎖群上に近接して存在する。

成果の活用面・留意点

  • アガロースゲル電気泳動とDNAシーケンサのいずれの方法でも、レトロトランスポゾン挿入多型に基づくマーカーの検出が可能である。
  • 本成果情報の手法により、「豊水」以外のニホンナシ品種特異的DNAマーカーを作成することが可能である。
  • ニホンナシから開発した22種類のレトロトランスポゾン挿入多型マーカーの塩基配列情報は、公的遺伝子データベースに登録済みである(アクセッション番号:AB665188-AB665209)。

具体的データ

 図1~2

その他

  • 中課題名:果樹におけるDNAマーカー育種のための高度基盤技術の開発
  • 中課題番号:142g0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2008~2012年度
  • 研究担当者:山本俊哉、金會澤(契約職員等)、寺上伸吾、西谷千佳子、片寄裕一(生物研)、澤村豊、齋藤寿広
  • 発表論文等:Kim H. et al. (2012) Breeding Science 62: 53–62.