ナシの単為結果性の品種間差異とマイクロアレイ法による遺伝子発現解析

要約

セイヨウナシはニホンナシに比べて単為結果性が高い。単為結果性の異なるナシ品種における受粉前の花床の遺伝子発現をマイクロアレイ法で網羅的に解析すると、フェニルプロパノイド代謝、葉緑体関連遺伝子群の発現量に有意な差意が認められる。

  • キーワード:ナシ、マイクロアレイ、単為結果性
  • 担当:果樹・茶・果樹ゲノム利用技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・品種育成・病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ニホンナシは一般的に単為結果性が低く、自家不和合性であることから、安定して結実を確保するために人工受粉を行う必要があり、その省力化が求められている。その解決策の一つとして、受粉の有無にかかわらず果実が着果・肥大する単為結果性の導入による安定結実が期待される。そこで、ニホンナシへの単為結果性導入のための基礎的情報を得ることを目的として、ナシにおける単為結果性品種の探索、ニホンナシへの導入の可能性の解析、マイクロアレイ解析による単為結果性関連遺伝子の網羅的な探索を行う。

成果の内容・特徴

  • ニホンナシ、チュウゴクナシおよびセイヨウナシを含む合計35品種・系統において、セイヨウナシは一般的に単為結果率が高く、ニホンナシは低い(表1)。セイヨウナシの中でも「ラ・フランス」の単為結果率は高く、その後の肥大果実率も高い(表1)。
  • 「ラ・フランス」を種子親として「晩三吉」との交雑から得られた雑種品種「太平洋」の単為結果率および肥大果実率は、「ラ・フランス」には劣るが、「晩三吉」よりも優れており、「ラ・フランス」の単為結果性が「太平洋」に遺伝したと考えられる。一方、「ラ・フランス」を花粉親、「豊水」を種子親とする雑種系統282-12では、単為結果は認められない(表1)。
  • マイクロアレイ法により、単為結果性の高い品種群と低い品種群における受粉前の花床での遺伝子発現を網羅的に解析した結果、フェニルプロパノイド代謝、光合成、葉緑体局在遺伝子群などの発現量に有意に差異がみられ、これらの遺伝子の単為結果性への関与が示唆される(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 「ラ・フランス」と「太平洋」は、単為結果性ニホンナシを育種するための素材として有用と考えられる。なお、遺伝様式については母性遺伝の可能性も考慮してさらに解析する必要がある。
  • 本研究により単為結果性との関連が示された遺伝子群の機能解析を進めることにより、ナシ単為結果性の分子機構解明に役立つ。
  • 単為結果性への関与が示唆される23種類の遺伝子群は、公的遺伝子データベースDDBJに登録済みである(アクセション番号:FS999599-FS999621)。

具体的データ

 表1~2

その他

  • 中課題名:果樹におけるDNAマーカー育種のための高度基盤技術の開発
  • 中課題番号:142g0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2008年~2012年度
  • 研究担当者:西谷千佳子、寺上伸吾、清水徳朗、齋藤寿広、山本俊哉
  • 発表論文等:Nishitani C. et al. (2012) Sci. Hortic. 136: 101-109