日本国内で再発見された土着天敵ハダニクロヒメテントウの近縁種からの識別法

要約

日本国内の果樹園や周辺植生から発生が確認されたハダニの有力土着天敵種ハダニクロヒメテントウは、近縁種キアシクロヒメテントウと混発する場合があるが、成虫頭部の色、卵色、幼虫と蛹の形態を実体顕微鏡で観察することで互いに識別可能である。

  • キーワード:ハダニクロヒメテントウ、キアシクロヒメテントウ、ハダニ、土着天敵、識別法
  • 担当:環境保全型防除・天敵利用型害虫制御
  • 代表連絡先:電話 029-838-6543
  • 研究所名:果樹研究所・カンキツ研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ハダニクロヒメテントウStethorus pusillus (Herbst)はダニヒメテントウ属に属し、難防除害虫ハダニ類の有力天敵として世界的に広く知られている。本種は1900年代初頭に本州での生息が報告されたが、その後本州~九州の農生態系で発生するダニヒメテントウ属はキアシクロヒメテントウStethorus japonicus H. Kamiyaとされた。そのため、本種は日本国内には生息しないと考えられてきた。しかし、果樹園および周辺植生に発生するダニヒメテントウ属を精査したところ、ハダニクロヒメテントウの発生があらためて確認され、しかもキアシクロヒメテントウと混発する事例も観察された。これまで報告されている両種の識別点は雄交尾器の形態のみである。また、両種とも体長約1.2~1.5mmときわめて小さいため、解剖して交尾器を観察することが困難である。そこで、野外で採集された両種個体の簡便な識別法の確立に向け、卵~成虫のすべての発育ステージについて実体顕微鏡レベルで観察可能な識別点を探索する。

成果の内容・特徴

  • 両種は成虫の頭部色彩に大きな差異が観察される(図1)。ハダニクロヒメテントウの頭部は雄雌ともに全体的に黒色である。一方、キアシクロヒメテントウの頭部は、雄雌で範囲は異なるものの、黄色~黄褐色の部分が存在する。
  • キアシクロヒテントウ成虫の頭部色彩は、標本の状態等の要因によって頭部全体が黒~暗褐色に見える場合があるが、プレパラート標本を作製して観察することで確実に識別できる(図1)。
  • 両種は各発育ステージの外部形態でも識別可能である(図2)。卵では、ハダニクロヒメテントウが黄白色~乳白色であるのに対し、キアシクロヒメテントウでは紅~紅白色である。幼虫では4齢(終齢)の前胸部背面の形態に違いがあり、ハダニクロヒメテントウには1対の黒紋が存在するのに対し、キアシクロヒメテントウには黒色の点刻模様のみが存在する。蛹では、ハダニクロヒメテントウが全体的に光沢のある黒色であるのに対し、キアシクロヒメテントウはやや光沢のない黒色で、後胸部背面中央に三角形の白~淡褐色紋、および腹部第1節背面の左右側方に1対の白~淡褐色紋が存在する。
  • 両種蛹の形態的特徴は抜け殻でも保持され、識別に利用できる(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 両種成虫とも、腹面を上にした状態で腹部末端を観察することで雌雄の判別が可能である。腹部末端中央部に切れ込みがあるのが雄、ないのが雌である。
  • 1~3齢幼虫では、両種とも前胸部背面に1対の黒色~薄黒色紋が存在し、識別困難である。

具体的データ

 図1~2

その他

  • 中課題名:土着天敵等を利用した難防除害虫の安定制御技術の構築
  • 中課題番号:152b0
  • 予算区分:交付金、土着天敵プロ
  • 研究期間:2011~2012年
  • 研究担当者:岸本英成、望月雅俊、北野峻伸(愛媛大農)
  • 発表論文等:岸本ら(2013)応動昆、57:47-50.