国内での発生が初めて確認されたチュウゴクナシキジラミ
要約
2011年に佐賀県のナシ生産地で発生した国内未記録のキジラミ類は、中国原産の重要ナシ害虫であるチュウゴクナシキジラミである。本種には形態や色彩が異なる季節型が認められ、多発生時には葉・果面のすす病、葉の黄化、早期落葉などの被害が見られる。
- キーワード:チュウゴクナシキジラミ、ニホンナシ、侵入害虫、新規発生、季節変異
- 担当:環境保全型防除・侵入病害虫リスク評価
- 代表連絡先:電話 029-838-6453
- 研究所名:果樹研究所・カンキツ研究領域
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
2011年夏に佐賀県西部のナシ生産地で日本に在来分布するナシキジラミとは異なる国内未記録のキジラミ類が多発生し、従来見られなかった、葉の褐変や黄化、早期落葉等の被害が見られた。本種の国内まん延阻止に必要な早期の検出に向けて、生態的・形態的特徴や被害の様態について明らかにする。
成果の内容・特徴
- 本種の幼虫は甘露や白色ろう物質(ワックス)を多量に排出し、これらが付着した葉や果実の表面にすす病が発生する(図1A, B)。葉の幼虫寄生部位は褐変し、高密度で寄生された樹では葉の黄化や多数の早期落葉が見られる(図1C)。
- 本種は、日本在来種と生態的・形態的特徴が異なり、多化性で、夏季の硬化したナシ成熟葉上にも産卵し、卵は葉縁の鋸歯部や葉脈(主脈)上に多く見られる(図1F)。出現時期によって形態や色彩が異なる季節型が存在し(図2A~C)、夏季を中心に発生する夏型は、体色が緑色?黄色で、前翅は黄色味を帯びた透明で通常は斑紋がない。晩秋に出現する冬型は、体サイズが夏型よりやや大きく、体や翅脈が黒褐色であるほか、前翅後縁に顕著な黒褐色斑紋を有する。なお本種冬型は、日本に在来分布するナシキジラミCacopsylla pyrisugaの越冬後の成虫に体色が似ているが、後者には前翅の黒褐色斑紋がないことで容易に区別できる(図2D)。
- 形態的特徴から、本種を中国原産のCacopsylla chinensisと同定し、新たにチュウゴクナシキジラミの和名を与えた。本種の寄主植物はナシ類のみで、佐賀県ではニホンナシで発生し、幸水、豊水、新高の3品種への寄生が確認されている。本種は2002年には台湾にも侵入発生しており、発生国におけるナシの最重要害虫となっている。原産地である中国のほぼ全域で発生し、我が国のほとんどのナシ産地にも侵入可能と思われる。
普及のための参考情報
- 普及対象:行政機関、普及機関等
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:チュウゴクナシキジラミが発生する可能性のあるニホンナシ生産地域(46都道府県の計約1.4万ha)。
- その他:本研究内容に基づいて病害虫発生予察特殊報2件が発表されている(佐賀県2011年9月13日付、山口県2012年6月19日付)。本種の形態および生態的特徴、被害の様態を示したことで、新規発生確認時における早期診断に役立てることができる。本種の防除に当たっては、ネオニコチノイド系クロチアニジン水溶剤とニテンピラム水溶剤、マクロライド系(スピノシン系)スピネトラム水和剤が使用可能である。なお、有機リン系や合成ピレスロイド系等の殺虫剤は、本種に対する効果が著しく低いことが知られている(井手ら, 2012)。
具体的データ
その他
- 中課題名:侵入病害虫等の被害リスク評価技術の開発および診断・発生予察技術の高度化
- 中課題番号:152e0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2011?2012年度
- 研究担当者:井上広光、口木文孝(佐賀果樹試)、井手洋一(佐賀農技防セ)
- 発表論文等:井上ら (2012) 応動昆、56:111-113