β-クリプトキサンチンの血中濃度が高い閉経女性は骨粗しょう症になりにくい

要約

ウンシュウミカンに特徴的に多いカロテノイド色素であるβ-クリプトキサンチンの血中濃度が高い閉経女性は、低い人に比べて骨粗しょう症の発症率が有意に低い。ウンシュウミカンの摂取が閉経女性の健康な骨の維持・形成に有用である可能性が高い。

  • キーワード:ウンシュウミカン、β-クリプトキサンチン、カロテノイド、骨粗しょう症
  • 担当:食品機能性・代謝調節利用技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・カンキツ研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

β-クリプトキサンチンはウンシュウミカンに多く含まれているカロテノイド色素である。これまで当研究所では、国内主要ミカン産地の住民を対象にした栄養疫学調査(三ヶ日町研究)から、β-クリプトキサンチンの血中濃度が高い閉経女性は骨密度が有意に高いことを明らかにしている。しかしながら、血中のカロテノイド濃度と骨粗しょう症の発症リスクとの関連を追跡調査で評価した報告は、これまでにない。 そこで、調査開始から4年後に457名の協力を得て追跡調査を実施し、血中カロテノイド濃度と骨粗しょう症の発症リスクとの関連を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 閉経女性のうち、調査開始時に既に骨粗しょう症を発症していた被験者を除いて、血中のβ-クリプトキサンチン濃度について、低いグループから、高いグループまでの3グループに分け、各グループでの骨粗しょう症の発症率を解析すると、血中のβ-クリプトキサンチンが高濃度のグループにおける骨粗しょう症の発症リスクは、低濃度のグループを1.0とした場合0.08となり、統計的に有意に低い(図1)。この関連は、ビタミンやミネラル類の摂取量などの影響を取り除いても統計的に有意である。
  • 調査開始から4年後の追跡調査で、新たに骨低下症及び骨粗しょう症を発症していた閉経女性では、調査開始時における血中β-クリプトキサンチン濃度が、発症しなかった健康な被験者(平均値1.94 μM)に対して、骨低下症では1.59 μM、骨粗しょう症では1.16 μMとなり、4年間で骨密度が低下した被験者ほど調査開始時の血中β-クリプトキサンチン濃度が統計的に有意に低い(図2)。
  • 今回調査した6種のカロテノイドのうち(α,β-カロテン、リコペン、ルテイン、ゼアキサンチン、β-クリプトキサンチン)、骨粗しょう症の発症リスク低減と有意な関連が認められたのはβ-クリプトキサンチンのみである(発表論文参照)。一方、男性や閉経前の女性においてはこのような関連はみられない(発表論文参照)。

普及のための参考情報

  • 普及対象・普及予定地域:本研究成果はβ-クリプトキサンチンが豊富なウンシュウミカンを摂取することが骨粗しょう症の発症予防に繋がる成果であり、その対象は全国の一般消費者からカンキツ生産地におけるカンキツ産業全般に渡る。
  • その他:骨粗しょう症の発症リスク低下が認められた血中β-クリプトキサンチン高レベル群では毎日およそ4個のミカンを摂取していたことから、骨粗しょう症の予防効果が期待できる具体的なミカンの推奨摂取量として消費者に情報提供できる。本研究成果は健康機能性に関連する確かなエビデンスとして、ウンシュウミカン並びにβ-クリプトキサンチン高含有カンキツの消費促進の材料となることが期待され、論文発表後は様々なメディアに取り上げられた。今後はミカン及びその加工食品の消費拡大に繋げるための広報普及活動に積極的に活用すると共にカンキツ生産者団体や食品加工事業者等と連携した情報普及活動を行う。

具体的データ

図1~2

その他

  • 中課題名:農産物・食品の機能性解明及び機能性に関する信頼性の高い情報の整備・活用のための研究開発
  • 中課題番号:310b0
  • 予算区分:交付金、果推協委託
  • 研究期間:2005~2012年度
  • 研究担当者:杉浦実、中村美詠子(浜松医科大)、小川一紀、生駒吉識、矢野昌充
  • 発表論文等:Sugiura M. et al. (2012) PLOS ONE. 7(12): e52643.