大果で暖地でも花芽枯死の少ない早生のニホンナシ新品種「凜夏(りんか)」

要約

「凜夏」は、大果で食味良好な早生のニホンナシ新品種である。短果枝の着生が多く花芽が安定して確保でき、栽培容易である。休眠期の高温による「幸水」等の花芽枯死発生地でもその発生が少ない。自家摘果性を有し、摘果労力の軽減が期待できる。

  • キーワード:ニホンナシ新品種、早生、大果、温暖化対応、自家摘果性
  • 担当:果樹・茶・ナシ・クリ等
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所品種育成・病害虫研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

地球温暖化の進行に伴う休眠期の高温により、近年鹿児島県をはじめとした西南暖地では、主要品種の「幸水」等で花芽の枯死等の生育異常が頻発し、安定生産が困難になっている。また、「幸水」は結実に結びつく短果枝の着生、維持がしにくい品種であるため、短果枝が着生しやすく、より栽培しやすい品種が求められている。そこで、花芽が安定して着生するとともに、「幸水」程度に食味良好な品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 1996年に果樹研究所において、中生の育成系統269-21(「豊水」×「おさ二十世紀」)に、早生の良食味品種の「あきあかり」を交雑して得られた実生から選抜した。2007年から2012年までナシ筑波55号としてナシ第8回系統適応性検定試験に供試して検討し、2013年2月の同試験成績検討会において新品種候補とした。2013年7月26日に品種登録出願し、11月22日に出願公表された。
  • 樹勢は中で「幸水」と同程度である。短果枝の着生はやや多、えき花芽の着生は中で、「幸水」よりも短果枝の着生が多く、花芽の確保は容易である。開花中央日は4月下旬で「幸水」と同時期、収穫中央日は8月下旬で「幸水」の数日後である。若木(2013年時に7年生)の収量は「幸水」と同程度である(表1)。
  • 円形の赤ナシである(図1)。果実の大きさは500g程度で「幸水」より大きい。果肉硬度は4.4ポンドで「幸水」よりも低く、果肉は軟らかい。果汁の糖度は13%程度で「幸水」と同程度である。果汁のpHは4.6で「幸水」より低く、「豊水」と同程度である。みつ症、芯腐れの発生がわずかにみられるが、いずれもその程度は軽微である(表1)。日持ち性は幸水と同程度である。
  • 鹿児島(薩摩川内市)においては、花芽の枯死率が「幸水」で40%程度であるのに対し、5%程度であり(表2)、鹿児島県等の暖地において花芽枯死の発生が少ないと考えられる。
  • 予備摘果を行う時期の目安である満開1ヶ月後における果そうあたりの幼果数は、育成地(つくば市)では「幸水」よりも少なく、自家摘果性を有していると考えられ、摘果作業の軽減が期待できる(表3)。
  • 黒斑病には抵抗性を示す。「幸水」と同様、黒星病に対しては罹病性であるが、慣行防除で栽培可能である。S遺伝子型はS1S3で、現在の主要品種とはいずれも異なり、交雑和合性を示すと考えられる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:ニホンナシ生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国のニホンナシ産地で栽培が可能であるが、特に鹿児島県や熊本県をはじめとした暖地での早期普及が期待される(許諾苗木生産業者数:16県、42業者)。
  • その他:苗木販売は2014年秋季から開始予定。みつ症の多発と裂果の発生が認められるとの報告がそれぞれ数県でみられた。その発生要因等検討が今後必要である。

具体的データ

図1,表1~3

(齋藤寿広)

その他

  • 中課題名:高商品性ニホンナシ・クリ及び核果類の品種育成と省力生産技術の開発
  • 中課題整理番号:142a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1996~2013
  • 研究担当者:齋藤寿広、澤村豊、壽和夫、高田教臣、平林利郎、佐藤明彦、正田守幸、西尾聡悟、寺井理治、加藤秀憲、西端豊英、樫村芳記、尾上典之、鈴木勝征、内田誠
  • 発表論文等:齋藤ら「凜夏」品種登録出願 2013年7月26日(第28387号)