地球温暖化によりリンゴの品質に長期的な変化が起きている

要約

過去30~40年間の温暖化による発芽・開花期の前進および成熟期の温度上昇の結果、リンゴ収穫期の果実品質は酸含量が減るなど長期的な変化が起きている。この変化は暦日、満開後日数、果皮色、デンプン含量のうちどの成熟指標を用いても認められる。

  • キーワード:気候変動、食味、酸含量、糖度、成熟指標
  • 担当:気候変動対応・果樹温暖化対応
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・栽培・流通利用研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

温暖化が果樹生産に種々の悪影響を及ぼしていることは近年、周知されつつあるが、消費者の関心が高い食味・食感など果実品質に及ぼす影響は明らかになっていない。また、気候変動が原因で発生している変化は、様々な分野で研究されているにも関わらず、統計的な証拠が発見されているものはわずかである。そこで、わが国の公設果樹研究機関に長年蓄積された希少な記録を活用し、リンゴ果実品質と温暖化の関連性を実証する。

成果の内容・特徴

  • 本成果は長野県果樹試験場および青森県産業技術センターりんご研究所が30~40年にわたって蓄積してきたリンゴ「ふじ」「つがる」の品質データと気象データを詳細に分析し、長期的な気候変動が品質にすでに及ぼしている影響を実証したものである。
  • 長野(長野市)、青森(黒石市)の気温は1970年以降、有意に上昇しており、年平均気温の変化は0.31°C/10年(長野)、0.34°C/10年(青森)である(図表略)。
  • 11月1日(「ふじ」)、9月1日(「つがる」)に収穫した果実の酸含量は長期的にみると徐々に減少し、糖度はやや増加傾向であるため、官能的な甘味の指標である糖酸比は向上しつつある(図1)。一方、硬度とみつ入り指数は有意な低下が認められる(図表略)。
  • 上記の品質の変化は暦日以外の成熟指数を用いて収穫した場合でも同じ傾向が認められる(図2、酸含量以外は図表略)。このことは市場に流通している果実にも温暖化が同様な影響を与えていることを示唆する。
  • 変化のメカニズムとしては春先の気温上昇で発芽、開花が促進され(図3)、果実成熟日数が延長し、果肉熟度が進んでいることと、夏から秋季(果実成熟期)の気温上昇が酸含量(図4)、硬度(図表略)およびみつ入り指数(図表略)の低下に直接影響を与えていることによる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:農林水産行政、環境行政、環境教育、消費者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:行政、教育機関、生産者団体等(資料、パンフレット、教材等)での利用5件。
  • その他:
    (1)気候変動が身近な日常生活に直接影響を及ぼしていることは、これまでほとんど実証されておらず、特に農産物の食味に対して温暖化がすでに影響を与えていることの証拠を示した世界で初めての成果である。
    (2)個々のリンゴ果実の品質は、気温以外にも様々な要素の影響を受けていることに留意する。
    (3)高温耐性はあるものの酸味が強い品種の活用など、温暖化に伴う品質変化を踏まえた、これまでの高温障害対策とは異なる新しい温暖化適応対策にも活用できる。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:気候変動が果樹生産に及ぼす影響の機構解明及び温暖化対応技術の開発
  • 中課題整理番号:210b0
  • 予算区分:農水省委託気候変動
  • 研究期間:2008年~2013年度
  • 研究担当者:杉浦俊彦、福田典明(青森産技セりんご研)、小川秀和(長野果樹試)、森口卓哉
  • 発表論文等:Sugiura T. et al. (2013) Scientific Reports 3:2418