ガンマ線照射花粉の交配により獲得したニホンナシ花粉側自家和合性突然変異体

要約

自家不和合性品種である「幸水」のガンマ線照射個体より採取された花粉を、無照射の「幸水」に受粉し、交雑実生415−1を獲得した。S 遺伝子型の解析及び交配試験の結果より、415-1はニホンナシでは報告のない花粉側の自家和合性変異体である。

  • キーワード:ニホンナシ、花粉側突然変異、放射線、受粉、S 遺伝子型
  • 担当:果樹・茶・ナシ・クリ等
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・品種育成・病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ニホンナシは自家不和合性で、同一品種及び同一の自家不和合性遺伝子(S 遺伝子)型品種間での受粉では結実しない。安定生産には短期間での人工受粉作業が必要であり、栽培管理における労力及び経費が増大する一因となっている。現在ニホンナシにおける自家和合性品種は、花柱側の自然突然変異体の「おさ二十世紀」を利用して育成されたもののみである。ニホンナシにおける新たな自家和合性変異体の獲得は、特定の育種母本を多用することで発生する近交弱勢の弊害が回避できるなど、効率的に品種育成を行っていく上で重要である。このため、受粉作業をせずとも結実安定性を示す新たなニホンナシ育種素材を獲得するため、主要品種である「幸水」の花粉にガンマ線照射を行い、花粉側の自家和合性変異体を獲得する。

成果の内容・特徴

  • 「幸水」にガンマ線を緩照射し、その「幸水」より採取された花粉を無照射の「幸水」450花に受粉した結果、獲得した種子数は2粒である。そのうち開花まで至ったのは415-1の1個体のみである。
  • 415-1は自家結実率が70%以上であることから、自家和合性を示す(表1)。
  • PCR法よるS -RNaseの遺伝子型解析の結果からは、415−1は「幸水」と同じS4S5 であると推定される。
  • 415−1に同じS 遺伝子型をもつ品種(「秀玉」および「王秋」)の花粉を交配した受粉試験では結実が見られないことから、415−1は花柱側変異の自家和合性でない(表2)。
  • 「王秋」に「幸水」の花粉を受粉した場合、両品種が同じS 遺伝子型のため不和合性を示す。一方、「秀玉」および「王秋」に415−1の花粉の受粉した場合、同じS 遺伝子型にもかかわらず何れも高い結実率が示され、415−1は花粉側変異の和合性をもつと判断できる(表3)。

成果の活用面・留意点

  • 415−1については果樹研究所との共同研究の実施などにより利用可能である。
  • オウトウでも同様の手法で自家和合性変異体が獲得されていることから、リンゴなど他のバラ科果樹でもこの手法を用いることで自家和合性変異体が得られる可能性がある。
  • 415−1は「幸水」の自家受粉由来の実生であるため、その樹および果実の特性は「幸水」とは異なる。「幸水」より樹勢は弱く、果実は小さく硬い。

具体的データ

表1~3

その他

  • 中課題名:高商品性ニホンナシ・クリ及び核果類の品種育成と省力生産技術の開発
  • 中課題整理番号:142a0
  • 予算区分:原子力プロジェクト、交付金
  • 研究期間:1993~2013年度
  • 研究担当者:澤村豊、間瀬誠子、髙田教臣、佐藤明彦、西谷千佳子、阿部和幸、増田哲男、山本俊哉、齋藤寿広、壽和夫
  • 発表論文等:Sawamura Y. et al. (2013) J. Japan. Soc. Hort. Sci. 82(3):222-226.