長い塩基反復単位を持ち誤判定の少ないニホンナシの新規SSRマーカー

要約

ニホンナシ「豊水」の次世代シーケンス解析から開発した4, 5, 10-14塩基反復単位を持つ合計120種類のSSRマーカーは、ナシの連鎖地図上に位置づけられる高精度DNAマーカーである。

  • キーワード:ニホンナシ、SSRマーカー、連鎖地図、DNA品種識別
  • 担当:果樹・茶・果樹ゲノム利用技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・品種育成・病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

果樹は幼若期間が長く、播種から開花・結実までに長い期間を要するため、DNAマーカーを用いた実生個体の早期選抜は、広い圃場面積と長期間にわたる労力を軽減でき、非常に有用である。これまでにニホンナシにおいて、高精度DNAマーカーの開発や基盤となる標準連鎖地図の構築を進めてきたが、未だ十分な量と質の高精度マーカーは開発されていない。従来の2塩基反復単位のSSR (simple sequence repeat)マーカーでは、スタッターバンド(付随バンド)が生じやすく、品種識別などにおいて正確な遺伝子型決定が困難な場合があり、また従来の主要な方法である濃縮ゲノムライブラリー法では2塩基より長い反復単位をもつSSRマーカーの開発が困難である。
そこで、次世代シーケンス解析から得られた塩基配列情報を基に、4塩基、5塩基、10-14塩基の反復単位を持つ新しいSSRマーカーとその利用技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • ニホンナシ「豊水」のゲノムDNAを次世代シーケンサ(Roche/454 GS-FLX Titanium)で解析した990 Mbの塩基配列情報から作成した120種類の新規SSRマーカーは、4塩基、5塩基もしくは10-14塩基の反復単位を持つ。
  • 開発したSSRマーカーは、4塩基反復が54個、5塩基反復が54個、10-14塩基反復が12個であり、ニホンナシ「豊水」、セイヨウナシ「バートレット」および「ラ・フランス」のいずれかの連鎖地図上に位置づけられる。
  • 新たに構築した「バートレット」の連鎖地図は、485座から構成され965cMの地図距離を持つ(図1)。「ラ・フランス」の連鎖地図は、370座から構成され1160cMの地図距離を持つ。「豊水」の連鎖地図は、415座から構成され1177cMの地図距離を持つ。
  • 10種類のSSRマーカー(表1)を用いて、信頼性が高く正確なDNA品種識別が可能である。

成果の活用面・留意点

  • ニホンナシから開発した120種類の新規SSRマーカーの塩基配列情報や連鎖地図上の位置情報は、公的遺伝子データベース(DDBJ/EMBL/GenBank)に登録済みである(アクセッション番号:AB733179-AB733298)。
  • 本成果情報で開発したSSRマーカーの解析と遺伝子型の判定には、DNAシーケンサを用いるのが望ましい。
  • 種苗管理センターと共同して「日本なし24品種の識別マニュアル」を作成し、試験室内妥当性確認で、安定性および再現性を確認している。

具体的データ

図1,表1

その他

  • 中課題名:果樹におけるDNAマーカー育種のための高度基盤技術の開発
  • 中課題整理番号:142g0
  • 予算区分:交付金、農水プロ(新ゲノム園芸)
  • 研究期間:2010~2013年度
  • 研究担当者:山本俊哉、寺上伸吾、西谷千佳子、國久美由紀、清水徳朗、齋藤寿広、片寄裕一(生物研)、成田知聡(種苗管理セ)
  • 発表論文等:
    1)Yamamoto T. et al. (2012) Acta Hort. 976: 477-483
    2)山本ら(2012) DNA多型 20: 58-61
    3)成田ら(2014) DNA多型 22(1): 74-76