天敵類のピットフォールトラップ捕獲数に対する容器サイズの影響は限定的である

要約

ピットフォールトラップ調査において、対象種の生息密度が低くい場合や、分布に偏りがある場合、口径サイズの増加に伴う捕獲数の増加は必ずしもみられない。市販プラスチックコップの標準サイズ内であれば、容器サイズの影響は問題にならない場合が多い。

  • キーワード:ピットフォールトラップ、地表徘徊性天敵、ゴミムシ、クモ、ハサミムシ
  • 担当:環境保全型防除・天敵利用型害虫制御
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・ブドウ・カキ研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ピットフォールトラップは地表徘徊性節足動物を調査する最も一般的な手法である。今後、果樹生産現場においても、農業に有用な生物多様性指標種や土着天敵類の生息状況をモニタリングする調査手法の一つとして、利用の増加が見込まれる。本トラップの捕獲数には生息密度以外にも多くの要因が関与し、特にトラップ本体に用いる容器の口径サイズは捕獲数に強く影響することが予想される。そこで、一般的な利用が想定される市販のプラスチックコップの範囲において、捕獲数に対する口径サイズの影響を検討する。

成果の内容・特徴

  • 果樹園での短期(2週間内)ピットフォールトラップ調査において、市販プラスチックコップを用いて実施する場合、口径約6.5~10cmの標準的サイズにおいて、小・中型のゴミムシ類、コモリグモ類、オオハサミムシの捕獲数に、容器サイズにともなう顕著な増加はみられない(図1a、b、d)。理由として、捕獲数が少ないこと、トラップ間で捕獲数が大きく異なること、が挙げられる。
  • 生息密度が高く、活発に移動するサラグモ類の雄では口径サイズとともに捕獲数に増加がみられることがある(図1c)。ただし、口径約6.5~10cmの標準的サイズにおいては、周長に比例した顕著な増加はみられない。

成果の活用面・留意点

  • 果樹園を対象にピットフォールトラップによる簡易調査を広く実施する際、実施者に提示する調査基準を策定するための参考となる。
  • 期間やトラップ設置数が作業上制限される生産現場での調査の場合、トラップと遭遇する個体数が限られ、口径サイズとは無関係に捕獲数が頭打ちとなりやすい。また、分布に大きな偏りがある場合は、捕獲数は口径サイズよりも設置場所に強い影響を受ける。このため、標準的な市販プラスチックコップのサイズ範囲(6.5~10cm)であれば、捕獲数に対する口径サイズの影響は限定的で、口径サイズを考慮した捕獲数の補正は必要ない。
  • 生息密度が非常に高い種を対象とする場合や、調査期間が長期にわたる場合は、口径サイズの影響を考慮し、捕獲数を周長で除すなどの補正が必要になることがある。
  • 大型のゴミムシ類やクモ類を調査対象とする場合や、回収間隔が長くなる場合には、捕獲虫の脱出の可能性やトラップ容器の飽和に配慮し、大きめの容器を使用する。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:土着天敵等を利用した難防除害虫の安定制御技術の構築
  • 中課題整理番号:152b0
  • 予算区分:委託プロ(生物多様性)
  • 研究期間:2010~2011年度
  • 研究担当者:外山晶敏、井原史雄、三代浩二、中野亮
  • 発表論文等:外山ら(2013)日本応用動物昆虫学会誌、57(2):101-108