ラットではβ-クリプトキサンチンは多くの臓器でβ-カロテンよりも蓄積されやすい

要約

β-クリプトキサンチンは肝臓や腎臓、脾臓、膵臓、脳など様々な組織に取り込まれ、その濃度は多くの組織でβ-カロテンよりも高く、生体利用性が高いと考えられる。β-クリプトキサンチンとβ-カロテンの生体調節機能の違いを解明する上で重要な知見となる。

  • キーワード:β-クリプトキサンチン、β-カロテン、臓器移行性、生体利用性
  • 担当:食品機能性・代謝調節利用技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・カンキツ研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

消化管より吸収された食品機能性成分は血液循環を介して様々な組織に取り込まれ、標的の臓器においてその成分が有する抗酸化作用や抗炎症効果等により、がん等の生活習慣病の発症予防効果が期待される。β-クリプトキサンチンはウンシュウミカンに多く含まれているカロテノイド色素であり、これまで当研究所では、ミカンの摂取量が多いほど血中β-クリプトキサンチン濃度が著しく上昇すること、またβ-クリプトキサンチンはβ-カロテン等の他のカロテノイドと比較して吸収されやすいことを疫学的な検討から明らかにしている。しかしながら、吸収されたβ-クリプトキサンチンの体内動態については不明な点が多い。そこでラットを用い、β-クリプトキサンチンとβ-カロテンの臓器移行性を比較し、両カロテノイドの生体調節機能解明のための一助とする。

成果の内容・特徴

  • β-クリプトキサンチンを20ppmの濃度で添加した飼料をラットに4週間自由摂取させたのち、各臓器中のβ-クリプトキサンチン蓄積量をHPLCで分析したところ、肝臓で最もその蓄積量が多く、以下、卵巣、脾臓、子宮、腎臓、睾丸、膵臓、脳、心臓、肺の順に多く蓄積される(図1)。
  • 一方、同様にβ-カロテンを20ppmの濃度で添加した飼料をラットに4週間自由摂取させたのち、各臓器中のβ-カロテン蓄積量を分析したところ、肝臓で最もその蓄積量が多く、以下、卵巣、膵臓、子宮、睾丸、腎臓、脳、心臓の順に多く蓄積される(図1)。
  • β-クリプトキサンチンの臓器中濃度は、肝臓、腎臓、脾臓、全脳、子宮ではβ-カロテンの濃度より有意に高いが、卵巣では逆にβ-カロテンの濃度の方が有意に高い。またβ-カロテンは肺及び脾臓において検出されない。
  • 対照群として用いた通常飼料中にはβ-クリプトキサンチンとβ-カロテンがそれぞれ0.07ppm、0.26ppm含有されているが、対照群のラットでは、β-クリプトキサンチンは肝臓、またβ-カロテンは肝臓と卵巣においてのみ微量検出される。
  • β-クリプトキサンチン投与群とβ-カロテン投与群とでは摂餌量や体重変化に差がみられないことから、多くの組織においてβ-クリプトキサンチンはβ-カロテンよりも蓄積量が多く、その生体利用性が高い。

成果の活用面・留意点

  • β-クリプトキサンチンとβ-カロテンの臓器への蓄積性の差違は、両者の生体調節機能の特徴を解明する上で重要な知見となる。
  • 本研究成果は齧歯類であるラットを用いた実験結果である。したがって、そのままヒトへの適用を示す結果では無い。今後はよりヒトに近い動物種を用いて検討する必要がある。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:農産物・食品の機能性解明及び機能性に関する信頼性の高い情報の整備・活用のための研究開発
  • 中課題整理番号:310b0
  • 予算区分:交付金、実用技術
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:杉浦実
  • 発表論文等:
    1)Sugiura M. et al. (2013) Biol. Pharm. Bull. 36(1):147-151
    2)Sugiura M. et al. (2014) Biosci. Biotechnol. Biochem. 78(2):307-310