β-クリプトキサンチンの血中濃度が高いと生活習慣病の発症リスクが低下する

要約

ウンシュウミカンに特に多く含まれるカロテノイドであるβ-クリプトキサンチンの血中濃度が高い人は、低い人に比べて2型糖尿病や脂質代謝異常症等の発症率が有意に低い。ウンシュウミカン摂取による生活習慣病予防を示唆する。

  • キーワード:ウンシュウミカン、β-クリプトキサンチン、カロテノイド、生活習慣病
  • 担当:食品機能性・代謝調節利用技術
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・カンキツ研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

β-クリプトキサンチンは特にウンシュウミカンに多く含まれているカロテノイド色素である。これまで当研究所では、国内主要ミカン産地の住民を対象にした栄養疫学調査(三ヶ日町研究)から、β-クリプトキサンチンの血中濃度が高い人ではインスリン抵抗性やメタボリックシンドローム、動脈硬化等のリスクが有意に低いことを横断研究により明らかにしている。 調査開始から10年間に渡る追跡調査が完了したことから、調査開始時の血中β-クリプトキサンチン濃度と追跡期間内での各種生活習慣病の発症リスクとの関連を縦断的に解析する。

成果の内容・特徴

  • 追跡調査データのある910名のうち、調査開始時に既に2型糖尿病(診断基準:空腹時血糖値が126 mg/dL以上もしくは糖尿病治療薬の服薬歴があるもの)であった被験者を除いた864名について、血中のβ-クリプトキサンチン濃度について、低いグループから、高いグループまでの3グループに分け、各グループでの2型糖尿病の発症率を解析すると、血中のβ-クリプトキサンチンが高濃度のグループにおける2型糖尿病の発症リスクは、低濃度のグループを1.0とした場合0.43で統計的にも有意に低い(図1のa)。この関連は、性、年齢、肥満度、喫煙・運動習慣、総摂取カロリー、アルコール摂取量などの影響を取り除いても統計的に有意である。
  • 同様にして調査開始時に既に脂質代謝異常症(診断基準:空腹時中性脂肪値が150 mg/dL以上もしくHDLが40 mg/dL未満、または脂質代謝異常症治療薬の服薬歴があるもの)であった被験者を除いた705名について、脂質代謝異常症の発症率を解析すると、血中のβ-クリプトキサンチンが高濃度のグループにおける脂質代謝異常症の発症リスクは、低濃度のグループを1.0とした場合0.66で統計的にも有意に低い(図1のb)。
  • 同様にして調査開始時に既に肝機能異常症(診断基準:血中ALT値が31 IU/mL以上、一日当たりのアルコール摂取量が60g以上、B及びC型肝炎ウィルス感染者、あるいは肝疾患治療薬の服用歴があるもの)であった被験者を除いた787名について解析を行ったところ、血中のβ-クリプトキサンチンが高濃度のグループにおける高ALT血症(ALT値が31 IU/mL以上)の発症リスクは、低濃度のグループを1.0とした場合0.51で統計的にも有意に低い(図1のc)。
  • 同様に、調査開始時に既に動脈硬化症(診断基準:脈波速度が18.3 m/sec以上)と考えられる被験者を除いた644名について解析を行ったところ、血中のβ-クリプトキサンチンが高濃度のグループにおける動脈硬化症の発症リスクは、低濃度のグループを1.0とした場合0.55で統計的にも有意に低い(図1のd)。
  • 同様に、β-クリプトキサンチン以外のカロテノイドについても検討を行ったところ、血中のα-カロテンが高濃度グループで2型糖尿病と脂質代謝異常症の発症リスクが有意に低く、血中のβ-カロテンが高濃度のグループでは脂質代謝異常症、高ALT血症及び動脈硬化症の発症リスクが有意に低い。

普及のための参考情報

  • 普及対象:カキ生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:(全国)全国の一般消費者と柑橘生産地がその普及対象地域となる。
  • その他:各種生活習慣病の発症リスク低下が認められた血中β-クリプトキサンチン高レベル群では毎日3個程度のミカンを摂取している。本研究成果は信頼性の高いエビデンスで有り、糖尿病等の生活習慣病の予防効果が期待できる具体的なミカンの推奨摂取量としてウンシュウミカンや関連製品の消費拡大の広報普及などで活用できる。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:農産物・食品の機能性解明及び機能性に関する信頼性の高い情報の整備・活用のための研究開発
  • 中課題整理番号:310b0
  • 予算区分:交付金、機能性食品開発プロ、果推協委託
  • 研究期間:2003~2015年度
  • 研究担当者:杉浦 実、中村美詠子(浜松医大医)、小川一紀、生駒吉識、矢野昌充
  • 発表論文等:
    1)Sugiura et al. (2015) BMJ Open Diabetes Res. Care 3:e000147
    2)Sugiura et al. (2015) Br. J. Nutr. 114(10):1674-1682
    3)Sugiura et al. (2016) Br. J. Nutr. 印刷中
    4)Nakamura et al. (2016) Nutr. Metab. Cardiovasc. Dis. 投稿中