モモ栽培では硫酸カリウムと同様に塩化カリウムを肥料として利用できる

要約

果樹栽培で主要なカリウム肥料である硫酸カリウムと比較して安価な塩化カリウムを、モモ栽培に肥料として同等量施用した場合、樹に対する塩素の濃度障害や塩基の溶脱などの問題はなく、硫酸カリウムと同様に用いることができる。

  • キーワード:モモ、カリウム肥料、塩素イオン
  • 担当:果樹・茶・ナシ・クリ等
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・栽培・流通利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

果樹栽培ではカリウム肥料として主に硫酸カリウムが用いられている。近年、肥料価格が高騰し、硫酸カリウムよりも成分あたり2~3割安価な塩化カリウムの利用が生産コスト削減対策の一つとして考えられている。しかし、これまでモモ栽培において塩化カリウムと硫酸カリウムの施用効果を比較した研究はほとんどなく、塩化カリウムの利用促進のためモモ栽培における塩化カリウムと硫酸カリウムの施用効果を検討する。

成果の内容・特徴

  • モモ「川中島白桃」のポット栽培樹(2009年に2年生)に塩化カリウムと硫酸カリウムを通常量(K2Oとして14g/樹、2009年のみ7g/樹)から2倍、3倍、4倍量の4段階で3年間施用すると、施用量の増加とともに葉中カリウム濃度が増加し、カルシウムやマグネシウム濃度が減少する傾向が見られるが、塩化カリウム施用区と硫酸カリウム施用区に各元素濃度の違いはない(表1)。葉中塩素濃度は、通常量施用区では塩化カリウム施用区と硫酸カリウム施用区に差はなく、塩化カリウムを過剰に施用すると葉中塩素濃度が増加する(図1)。しかし、4倍量施用しても葉や新梢に塩素の濃度障害は発生しない(データ略)。
  • 塩化カリウムと硫酸カリウムの通常量施用区では、モモの1果重(各276g、265g)、糖度(Brix 13.6%、13.4%)、果汁pH(4.7、4.5)に差はない。
  • 塩化カリウムと硫酸カリウムの施用量が増加するほど栽培後の土壌中交換性カリウム濃度が高くなるが、交換性カルシウムとマグネシウム濃度には差はなく、塩化カリウム施用区と硫酸カリウム施用区の間にも差はない(表2)。また、土壌中塩素イオン濃度は、塩化カリウムの施用で増加する傾向が見られるものの、4倍量施用しても通常量を施用した場合と有意差はない(データ略)。

成果の活用面・留意点

  • 塩化カリウムは、塩基の溶脱あるいは土壌溶液中の塩素およびカリウムイオン濃度を高めて塩類濃度障害を起こしやすいとされているが、モモへ通常量のカリウムを硫酸カリウムに替えて施用しても土壌・樹体に問題はみられず、塩化カリウムを硫酸カリウムと同様に用いることができると考えられる。
  • 本成果はポット試験のものであるが、茨城県つくば市(黒ボク土)の圃場において、モモ「あかつき」のカリウム肥料として塩化カリウム(10kg K2O/10a)を3年間施用したところ、樹体へのカリウム供給には問題なく、カリウム無施肥区や堆肥施用区と比較して1果重や糖度(Brix)に差がないことを確認している。ただし、硫酸カリウムとの比較はしていない。

具体的データ

その他

  • 中課題名:高商品性ニホンナシ・クリ及び核果類の品種育成と省力生産技術の開発
  • 中課題整理番号:142a0
  • 予算区分:その他外部資金(受託試験)
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:井上博道、草塲新之助、中村ゆり
  • 発表論文等:井上ら(2015)土肥誌、86:540-544