SSRマーカーに基づく主要ナシ母本の近縁度および近交度の推定

要約

SSRマーカーに基づく近縁度および近交度の最適な推定法を選定して、ナシ育種母本を評価すると、在来品種間で潜在的な類縁関係が存在することと、交雑育種開始初期より近親交配が生じていることが示唆される。

  • キーワード:ニホンナシ、近縁度、近交度、近交係数、SSRマーカー
  • 担当:果樹・茶・ナシ・クリ等
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・品種育成・病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ニホンナシ育種では、少数の母本を中心とする交雑の結果、近交弱勢による樹勢の低下といった問題が生じている。近交弱勢を避けるためには、品種間の近縁度を正確に把握して、現育種集団から遠縁の品種を交雑する必要がある。一般に、個体間の近縁度や、個体自身の近交度の推定には、家系図に基づく近縁係数や近交係数が広く用いられている。しかし、特に在来品種のように家系が未知の個体同士の近縁係数は0と仮定されるため、近縁度が過小評価される場合がある。こうしたなか、DNAマーカーを利用して近縁度と近交度を推定する方法が近年いくつか報告されている。そこで、主要なナシ育種母本についてSSRマーカーで多型解析を行い、近縁度および近交度の推定法をそれぞれ検討して最適な方法を選ぶ。さらに、これらの方法を用いて在来品種間の近縁度および育成品種・系統の近交度の推定を行い、今後のニホンナシ育種に資する情報を得る。

成果の内容・特徴

  • 連鎖群上の位置が重ならないように選んだ207種類のSSRマーカーを用いて、76の主要なナシ育種母本(ニホンナシ:49品種・11系統・13在来品種、チュウゴクナシ:3在来品種)について多型解析を行う。個体間のアリル共有度と個体内のアリルのホモ接合度を基にして、DNAマーカーを利用して近縁度を推定する方法について7種類、近交度について5種類の方法で推定する。3世代前まで家系が完全に分かっている品種・系統の家系図に基づく近縁係数および近交係数を便宜的に真の値とした場合、近縁度はWang(2007)、近交度はLeuteneggerら(2003)の方法が、真の値と相関が高く、誤差が小さい最適な方法となる(表1)。
  • 16在来品種間ではSSRマーカーに基づく近縁度が0.25前後となる組合せが存在する(図1)。近縁度0.25は、親子や兄弟間で示す値であり、いくつかの在来品種間で潜在的な類縁関係の存在が示唆される。
  • 60品種・系統のうち、交配年次の記録がある57育成品種・系統について、近交係数およびSSRマーカーに基づく近交度と交配年次との関係を調べると、ニホンナシ育種が進展するにつれて近交弱勢の危険が高まっていることがSSRマーカーからも示唆される(図2)。また、1939年より前に交配された品種・系統はほとんどが在来品種間の交配であって、計算上は近交係数が全て0となるが、SSRマーカーに基づく近交度は0より高い場合がある(図2)。したがって、交雑育種開始初期からすでに近親交配が生じている可能性がある。

成果の活用面・留意点

  • SSRマーカーに基づく近縁度は近親交配を避けるために利用可能であり、特に由来がわからない品種を交配親に用いる際は利用価値が高い。
  • 207種類のSSRマーカーセットよりも密度が低い76種類のSSRマーカーセットを用いた場合でも、やや精度は落ちるが同程度の解析結果を得られる。

具体的データ

その他

  • 中課題名:高商品性ニホンナシ・クリ及び核果類の品種育成と省力生産技術の開発
  • 中課題整理番号:142a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:尾上典之、山田昌彦、山本俊哉、寺上伸吾、西谷千佳子、國久美由紀、高田教臣、西尾聡悟、澤村豊、齋藤寿広
  • 発表論文等:Onoue et al. (2015) Euphytica 205:539-555