ニホングリ「ぽろたん」における凍害防止に有効な土壌水分条件

要約

代表的な水田土壌である灰色低地土において、晩秋期から早春期の土壌水分含量を25%以下にすることが、ニホングリ「ぽろたん」の幼木における凍害発生の防止に有効である。

  • キーワード:ニホングリ、土壌水分、凍害、灰色低地土
  • 担当:果樹・茶・ナシ・クリ等
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・栽培・流通利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、渋皮剥皮性が良いニホングリ「ぽろたん」の新植面積が増加している。その一方で、水田転換園等で頻発する新植樹の凍害による枯死が、生産者の生産拡大意欲の障害となっていることから、凍害防止対策が産地拡大における喫緊の課題となっている。これまでに、クリの凍害発生は晩秋期から早春期(11月~3月)の土壌水分との関連が示唆されている。また、果樹の耐凍性は枝の含水率と負の相関が、糖含量と正の相関があることが報告されている。しかしながら、過去の耐凍性試験については枝や幹といった樹の一部を使用したものが主であり、地下部も含めた樹全体で試験を行っている例は少ない。そこで、ポット樹を用いてクリの凍害防止に有効な晩秋期から早春期の土壌水分含量を明らかにすることを目的に試験を実施する。

成果の内容・特徴

  • 灰色低地土に植栽した「ぽろたん」ポット樹を用い、耐凍性増大期には1年生枝を、耐凍性減少期には樹全体を用いて、耐凍性を評価する。耐凍性増大期の12月中旬には、土壌水分を15%および25%に設定した区(以下、15%区および25%区)は、-12℃に遭遇しても半数以上の枝が生存しており、40%に設定した区(以下、40%区)と比較して耐凍性が高い傾向が認められる。耐凍性減少期の2月中旬の耐凍性は土壌水分の違いによる差は認められないが、更に耐凍性が減少する3月下旬では、15%および25%区は、-16℃に遭遇しても半数以上の樹が生存しており、40%区と比較して耐凍性が高くなる傾向が認められる(表1、2)。
  • 一年生枝における含水率は、耐凍性増大期では処理間の差は判然としないが、耐凍性減少期の3月下旬には、40%区で上昇するのに対し、15%および25%区では低い状態を維持する(図1左)。
  • 一年生枝の全糖含量は、耐凍性増大期では、処理間の差は判然としないが、耐凍性減少期の3月下旬には、25%区>15%区>40%区の順に高い(図1右)。
  • 以上より、灰色低地土において土壌水分を25%以下にすることで、温度上昇に伴い耐凍性が減少する3月下旬においても、一年生枝における含水率の高まりを抑え、全糖含量の低下を抑制することにより、耐凍性が高まることが示唆される。

成果の活用面・留意点

  • これまでに凍害防止対策として、晩秋期から早春期における土壌水分の上昇を抑制する目的でマルチ被覆および高畝栽培を行うことにより、耐凍性減少期の耐凍性を維持する技術が開発されている。詳細については、クリ凍害の危険度判定指標と対策技術マニュアルを参照のこと。

具体的データ

その他

  • 中課題名:高商品性ニホンナシ・クリ及び核果類の品種育成と省力生産技術の開発
  • 中課題整理番号:142a0
  • 予算区分:競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:阪本大輔、井上博道、草塲新之助
  • 発表論文等:
    1)Sakamoto D. et al. (2015) Bull. NARO Inst. Fruit Tree Sci. 20:21-28
    2)農研機構(2014)「クリ凍害の危険度判定指標と対策技術マニュアル」 (2014年10月30日)