ブドウ果皮のアントシアニン組成を制御する主要な遺伝子座の同定

要約

ブドウ果皮アントシアニン組成に関連する主要な遺伝子座は、第二染色体のMYB遺伝子座と第一染色体のAOMT遺伝子座である。二つの遺伝子座の遺伝子型がアントシアニン代謝に関わる遺伝子の発現制御を介してアントシアニン組成に影響する。

  • キーワード:アントシアニン組成、果皮色、QTL解析、MYB、ブドウ
  • 担当:果樹・茶・ブドウ・カキ
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・ブドウ・カキ研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ブドウ果皮の色調や高温下での着色安定性は、果皮に蓄積する複数種類のアントシアニン色素の組成やアントシアニンのメチル化による着色安定化の影響を受けるが、アントシアニン組成の制御に関連する遺伝機構は未解明である。そこで、アントシアニン組成の決定に関連する遺伝子座の同定を目的として、欧米雑種ブドウ実生集団から作成した連鎖地図を用いてQTL(Quantitative Trait Loci)解析を行う。さらに、特定した遺伝子座の遺伝子型とアントシアニン組成との関係等を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 欧米雑種ブドウのF1集団(626-84×育82)におけるアントシアニン組成のQTL解析の結果、デルフィニジン系/シアニジン系アントシアニンの組成比(Dp/Cy比:値が高いと紫系、低いと赤系になる)に関連する主要なQTLは、第二染色体上のMYB遺伝子座に検出される(表1)。また、メチル化/非メチル化アントシアニンの組成比(M/NM比:値が高いほど深赤色・安定化する)に関連する主要なQTLは、MYB遺伝子座と第一染色体上に座乗しアントシアニンのメチル化を制御するAOMT(anthocyanin O-methyltransferase)遺伝子座に検出される。
  • MYB遺伝子座にはA、C-Rs、E1の3種類のアレルが存在し、A/E1、C-Rs/E1の遺伝子型を持つ個体群のDp/Cy比はA/C-Rsの個体群よりも有意に高い(図1)。また、M/NM比についてもこれらの遺伝子型を持つ個体群で高い傾向がみられる(図2)。AOMT遺伝子座にはa、b、cの3種類のアレルが存在し、a/bの遺伝子型を持つ個体群ではMYB遺伝子型に関わらずメチル化アントシアニンがほとんど蓄積しない(図2)。一方、遺伝子型がc/cの個体群ではM/NM比が高い。
  • MYB遺伝子型とDp/Cy比を制御するflavonoid 3',5'-hydroxylase(F3'5'H)遺伝子およびflavonoid 3'-hydroxylase(F3'H)遺伝子の発現量比(F3'5'H/F3'H発現量比)の関係では、MYB遺伝子型がA/E1、C-Rs/E1の個体群でF3'5'H/F3'H発現量比が高く、Dp/Cy比と正の相関がある(データ省略)。また、MYB遺伝子型がA/E1、C-Rs/E1の個体群ではアントシアニンのメチル化を制御するAOMT遺伝子の発現量が高い。AOMT遺伝子型がa/bの個体群ではAOMTがほとんど発現しないが、M/NM比が高いc/cの個体群ではAOMT発現量も高くなり、M/NM比と正の相関がある。
  • 以上のことから、MYB遺伝子座がF3'5'H/F3'H発現量比とAOMT発現量の制御を介してDp/Cy比、M/NM比を制御するとともに、AOMT遺伝子座がAOMT発現量の制御を介してM/NM比を制御していると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • DNAマーカーで同定した二つの遺伝子座の遺伝子型を指標にすることにより、ブドウ果皮の色調や着色安定性を想定した優良着色個体を早期判別できる。
  • 様々なブドウ品種や交雑実生群等を用いて、二つの遺伝子座のアレル多様性を調査し、アントシアニン組成マーカーとしての有効性を検証する必要がある。

具体的データ

その他

  • 中課題名:高商品性ブドウ・カキ品種の育成と省力生産技術の開発
  • 中課題整理番号:142b0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:東暁史、伴雄介、佐藤明彦、河野淳、白石美樹夫、薬師寺博、小林省藏
  • 発表論文等:
    1)Azuma et al. (2015) Tree Genet. Genomes 11(2):31
    2)東「ブドウ果皮の色調を制御する二つの遺伝子座を発見―温暖化に対応した優良着色品種の効率的な育成が可能に―」 プレスリリース (2015年6月23日)