ニホンナシ黒斑病感受性に連鎖するDNAマーカー

要約

ニホンナシ「おさ二十世紀」、「南水」および「巾着」の第11連鎖群上部末端に位置するDNAマーカーは、ニホンナシ黒斑病感受性と連鎖しており、黒斑病抵抗性を持つ個体の選抜に利用できる。

  • キーワード:ニホンナシ、ニホンナシ黒斑病、マーカー選抜育種、連鎖地図
  • 担当:果樹・茶・果樹ゲノム利用技術
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・品種育成・病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ニホンナシ黒斑病は、糸状菌Alternaria alternata Japanese pear pathotypeを病原とするニホンナシ栽培における主要病害の一つである。「おさ二十世紀」や「南水」などの感受性品種では、防除のために薬剤散布や袋がけが必須である。これまでの遺伝解析から、ニホンナシ黒斑病に対する感受性は単一の優性主働遺伝子支配であり、劣性ホモ型で抵抗性、ヘテロ型で感受性であることが明らかとなっている。
「おさ二十世紀」、「南水」および「巾着」におけるニホンナシ黒斑病感受性遺伝子座の遺伝解析を行い、感受性遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを取得するとともに、連鎖地図上の座乗位置を明らかにする。開発したDNAマーカーによりニホンナシ黒斑病感受性個体の早期淘汰が可能となる。

成果の内容・特徴

  • 「おさ二十世紀」×「晩三吉」のF1集団(110個体)、「王秋」×「南水」のF1集団(40個体)および「豊水」×「巾着」のF1集団(621個体)を用いて構築した、「おさ二十世紀」、「南水」および「巾着」の第11連鎖群の連鎖地図である(図1)。
  • Mdo.chr11を冠するDNAマーカーは、リンゴ「Golden Delicious」の公開ゲノム配列、第11番染色体から開発したSSRマーカーである。ナシおよびリンゴの標準連鎖地図におけるSSRマーカーの座乗位置から、「おさ二十世紀」、「南水」および「巾着」の黒斑病感受性遺伝子座の座乗位置は、第11連鎖群の上部末端である(図1)。
  • 「おさ二十世紀」および「南水」に由来するニホンナシ黒斑病感受性個体のDNAマーカー選抜には、SSRマーカーであるCH04h02およびCH03d02が使用可能である。「巾着」に由来する感受性個体のマーカー選抜には、SSRマーカーであるMdo.chr11.28およびMdo.chr11.34が使用できる。

成果の活用面・留意点

  • SSRマーカーによる遺伝子型判定には、アガロースゲルやポリアクリルアミドゲルを用いた未変性電気泳動法では長さの差がわずかな増幅バンドを誤って判定する可能性がある。遺伝子型の解析および判定にあたっては、DNAシーケンサーを用いる変性電気泳動を行うことが望ましい。
  • 上記以外の交配集団でDNAマーカー選抜を行う際には、両親間の多型性等を考慮する必要がある。「南水」感受性遺伝子座は在来品種である「独逸」に由来している。「巾着」および「おさ二十世紀」(二十世紀の枝変わり品種)も在来品種であり、感受性遺伝子座の起源は異なっている。
  • Mdo.chr11.30は「巾着」の感受性遺伝子座と完全連鎖しているが、より確実なマーカー選抜を行うには、Mdo.chr11.28およびMdo.chr11.34の2種類のマーカーを併用するのが望ましい。

具体的データ

その他

  • 中課題名:果樹におけるDNAマーカー育種のための高度基盤技術の開発
  • 中課題整理番号:142g0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間:2010~2015年度
  • 研究担当者:寺上伸吾、森谷茂樹、足立嘉彦、國久美由紀、西谷千佳子、齋藤寿広、阿部和幸、山本俊哉
  • 発表論文等:
    1)Terakami S. et al. (2015) Breeding Sci. 66(2):271-280
    2)Terakami S. et al. (2007) Genome 50(8):735-741