土壌中における白紋羽病菌への新種マイコウイルスの自然感染
要約
マイコウイルスは糸状菌に感染するウイルスである。土壌中において白紋羽病菌には多様なマイコウイルスの自然感染現象が見られる。本現象はいまだ知見が限られているマイコウイルスの多様性・生態解明に寄与する。
- キーワード:マイコウイルス、白紋羽病菌、伝搬、自然感染
- 担当:環境保全型防除・生物的病害防除
- 代表連絡先:電話029-838-6453
- 研究所名:果樹研究所・リンゴ研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
白紋羽病菌は果樹類の根を腐敗させる土壌糸状菌であり、本菌の病原力を低下させるマイコウイルスを利用した防除技術の開発が進められている。近年、糸状菌には多くのマイコウイルスが感染していることが明らかになりつつあるが、マイコウイルスの多様性や生態に関する知見は極めて限られている。これまでに見いだされたマイコウイルスの多くはRNAをゲノムとし、一般的に菌糸融合可能な同種で和合性の菌体間での伝搬経路のみが確認されている。本研究においては、糸状菌を含む多様な生物種が共存する土壌中において、同種和合性菌体間の菌糸融合以外の経路により白紋羽病菌にマイコウイルスが自然感染する可能性を検証する。
成果の内容・特徴
- 検証例1:ウイルスフリーの白紋羽病菌(W563株あるいはNW10株)をリンゴ樹の根に接種し、2~3年後に菌を再分離する。分離された菌については、遺伝子型の解析により接種した菌株と同一であることを確認する。これらの分離菌から接種前には認められないマイコウイルスのゲノムと推定される二本鎖RNA(dsRNA)が検出される事例が認められる(図1)。
- 検証例2:限られた土壌環境での白紋羽病菌へのマイコウイルスの自然感染を検証するため、異なる地点から採取した土壌中にウイルスフリーの白紋羽病菌(W370T1あるいはW97)とリンゴ枝を埋設して容器内で培養し、一定期間後にリンゴ枝から白紋羽病菌を再分離する。1.5ヶ月後ではdsRNAは検出されないが、4~4.5ヶ月後にはdsRNAが検出される事例が認められる(表1、図2)。
- 再分離株から複数のdsRNAが検出されることがあり、いずれもマイコウイルスのゲノム由来である。その中には新種ウイルスが含まれることもある。以上より、土壌中において白紋羽病菌には多様なマイコウイルスが自然感染することを確認できる。
成果の活用面・留意点
- 本法は、白紋羽病菌に感染する新種ウイルスの捕捉に利用できる。
- 供試した土壌中に菌糸体和合性の白紋羽病菌の存在は想定されず、マイコウイルスの感染源および伝搬者は不明であり今後の究明が待たれる。
- マイコウイルスの伝搬者およびウイルスの感染源を明らかにすることは、マイコウイルスを防除因子として利用するための戦略を構築する上で有用な情報となる。
具体的データ
その他
- 中課題名:生物機能等を活用した病害防除技術の開発とその体系化
- 中課題整理番号:152a0
- 予算区分:交付金、 競争的資金(イノベーション創出)、競争的資金(科研費)
- 研究期間:2008~2014年度
- 研究担当者:兼松聡子、八重樫元、中村仁、佐々木厚子、伊藤 伝
- 発表論文等:
1)Yaegashi H. et al. (2013) FEMS Microbiol. Ecol. 83:49-62
2)Yaegashi H. and Kanematsu S. (2016) Virus Res. 219:83-91