自発休眠覚醒後の開花に必要なニホンナシの低温遭遇時間は時期により異なる

要約

70%以上の腋花芽萌芽率を得るために必要な「幸水」の低温遭遇時間は、10月、11月、12月、1月から低温を与えた場合、いずれの時期も900時間である。一方、70%以上の腋花芽開花率を得るにはそれぞれ2100、1500、1200、900時間が必要である。

  • キーワード:ニホンナシ、自発休眠、低温要求量
  • 担当:気候変動対応・果樹温暖化対応
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・栽培・流通利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ニホンナシなどの落葉果樹では、自発休眠覚醒のために一定の長さの低温に遭遇する必要がある。近年、わが国の温暖地域で発生が認められる春季の発芽不良の要因として、耐凍性の不足による凍害とともに、秋から春にかけての気温の乱高下に起因する自発休眠サイクルの乱れが関与している可能性が指摘されているが、その詳細は明らかでない。

そこで、萌芽不良現象の機構解明に資するため、自発休眠覚醒に及ぼす低温の影響を明らかにする目的で、秋から晩冬にかけての様々な時期に人工的な低温を「幸水」に与え、低温遭遇後の萌芽および開花に及ぼす影響を調査した。

成果の内容・特徴

  • 「幸水」腋花芽の自発休眠覚醒に最も有効な温度帯は0~6°Cである(杉浦・本條 1997)。そこで低温に遭遇しないよう11/1以前は露地、それ以降は15°Cの人工気象室に移動して管理したポット植え「幸水」に、10/7、11/1、12/4、1/31から低温(6°C・暗黒)を与え、その後15°C(自然日長)に移して2ヶ月生育させると、いずれの時期でも900時間の低温に遭遇すると70%以上の腋花芽で萌芽(本研究ではリン片の伸長が認められる状態と定義、図1のa)が認められる(2013-14年、図2)。一方、腋花芽の開花(本研究では小花の花弁が見える状態と定義、図1のb)は、低温遭遇時間が長くなるほど率が高くなる(図2)。また70%以上の開花率を得るために必要な低温遭遇時間は低温開始時期が早くなるほど長くなる。
  • 11/1から1200時間(開花率39%、図2参照、以下同じ)、11/1から1500時間(開花率81%)、12/4から1200時間(開花率70%)の低温に遭遇させ、その後15°C(自然日長)で生育させた腋花芽では、リン片長は低温遭遇時間が長い芽で長くなり、小花長は12/4から1200時間低温処理>11/1から1500時間低温処理>11/1から1200時間低温処理の順で長くなる(図1のc、図3)。この時、DAM遺伝子の腋花芽における発現はリン片の伸長が大きい処理ほど低く、FT遺伝子の発現は小花長が長い処理ほど高い(図4)。
  • 以上より、秋から晩冬のニホンナシ花芽は、一定時間の低温に遭遇すればその後の生育適温によりいつでも70%以上の萌芽率が得られるが、70%以上の開花率を得るには一年の中で適切な季節に低温に遭遇する必要があると考えられる。また萌芽にはDAM遺伝子の発現低下が関係しており、開花にはそれに加えてFT遺伝子の発現上昇が関与していると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • ニホンナシの自発休眠覚醒後の開花には、低温遭遇時間の絶対量だけではなく、適切な時期の遭遇が必要であることが明らかとなり、ニホンナシの発芽不良の機構解明の有用な情報となる。
  • 頂花芽と腋花芽では反応が異なる可能性があるため注意が必要である。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:気候変動が果樹生産に及ぼす影響の機構解明及び温暖化対応技術の開発
  • 中課題整理番号:210b0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2012~2014年度
  • 研究担当者:伊東明子、齋藤隆徳、阪本大輔、杉浦俊彦、白松齢、森口卓哉
  • 発表論文等:Ito et al. (2015) Tree Physiol. doi:10.1093/treephys/tpv115