ニホングリ「ぽろたん」の自発休眠覚醒モデル

要約

ニホングリ「ぽろたん」における自発休眠覚醒効果は0~6℃が最も有効であり、
それより高温の9℃での有効性は0~6℃の約85%、12℃では約65%となり、15℃は無効である。

  • キーワード:ニホングリ、自発休眠、低温要求量、発育速度モデル
  • 担当:気候変動対応・果樹温暖化対応
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・栽培・流通利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、渋皮剥皮性が良いニホングリ「ぽろたん」の新植面積が増加する一方で、新植樹の凍害による枯死事例が各地で頻発しており、凍害防止対策が産地拡大における喫緊の課題となっている。これまでに、ナシやモモでは春季に地上部の各器官の耐凍性は自発休眠覚醒後より地温の上昇に伴い根からの吸水が開始されることにより低下することが分かっているが、クリの自発休眠特性についてはほとんど明らかにされていない。また、凍害対策としてクリでは断根処理により根からの吸水を抑制する方法が開発されており、初冬季から早春季の凍害抑制には自発休眠期間中に断根処理を行うことが望ましいと考えられる。今後、地球温暖化が進むことにより、断根処理の適期である自発休眠期が遅延する可能性がある。そこで、ニホングリ「ぽろたん」における自発休眠覚醒に有効な温度帯を明らかにするとともに、杉浦ら(1997)が開発した発育速度(DVR)モデルに基づいて自発休眠覚醒モデルを作成する。

成果の内容・特徴

  • 10月中旬に2または3年生ポット樹より一年生枝を採取し、0~15℃下で保管した後、経時的に枝を搬出し、20℃のインキュベータを用い水差し法で、自発休眠覚醒の指標となる萌芽率70%に至る積算低温時間は、0、3および6℃では、744時間から888時間の間に、9℃では、888時間から1056時間の間に、12℃では1056時間から1512時間の間であると判断され、9℃および12℃の有効性は0~6℃の約85%および約65%となる(図1)。
  • ポット樹において、10月中旬より、6℃で連続低温処理を行い、経時的に最低気温15℃の温室に移動し,萌芽調査を行ったところ、切り枝試験と同様に744時間から888時間の間に自発休眠から覚醒していると判断される(データ略)。
  • 各温度のDVR(低温遭遇時間の逆数)は、0~6℃では12.25×10-4 (1/816)、9℃では10.42×10-4 (1/960)、12℃では7.79×10-4 (1/1284)である。15℃以上のDVRは0とし、それぞれのDVRを直線で結んで自発休眠覚醒モデルとなる(図2)。なお、0℃未満は試験を実施していないため、0~6℃と同等と仮定する。
  • DVI(DVI=ΣDVR=1)から推定した自発休眠覚醒期推定モデルと、露地のポット樹を用いて2年間自発休眠覚醒期を比較した結果、推定モデルの妥当性が確認できる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本モデルを用いることにより、「ぽろたん」の断根処理の適期予測が可能となる。
  • 今回開発したモデルでは、0℃以下の有効性の評価を行っていないことから、休眠覚醒までに0℃以下の気温が数百時間現れる地域で適用できるかは不明である。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
  • 中課題整理番号:210b0
  • 予算区分:競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:阪本大輔、井上博道、草塲新之助、森口卓哉、杉浦俊彦
  • 発表論文等:Sakamoto et al. (2015) J. Agric. Meteorol. 71(2):106-110