リンゴ園の地表面管理が土壌および果実の放射性セシウム濃度に及ぼす影響

要約

リンゴ園では、地表面管理の違いにより土壌中の放射性セシウムの分布に違いが生じるものの、事故発生後4年間はリンゴ果実の放射性セシウム濃度への影響は認められない。雑草、落葉等の地表面有機物に含まれる放射性セシウム量は年ごとに大きく減少する。

  • キーワード:リンゴ、放射性セシウム、地表面管理、中耕
  • 担当:放射能対策技術・移行低減
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・栽培・流通利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質のうち、セシウム137は半減期が約30年であり長期的な影響が懸念される。

過去の調査から、果樹園に降下した放射性セシウムは、多くが根の少ない土壌表層に存在しており、事故後に発生した新生器官に蓄積された放射性セシウムは、樹体表面に付着した放射性セシウムが直接吸収、移行したことが主因であると推察されている。しかし、果樹栽培で行われる草生栽培、中耕、堆肥施用などの地表面管理が、地表面付近に蓄積している放射性セシウムの果樹園での動態や樹体による経根吸収に及ぼす影響は明らかでない。このため、リンゴ園の地表面管理が土壌、果実の放射性セシウム濃度(以下、濃度)および地表面有機物に含まれる放射性セシウム量に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 地表面管理は、(1)清耕区:除草剤により管理、(2)中耕区:2011~2013年の春季に樹冠下を深さ約5 cm、幅約1 mで列状に中耕、(3)中耕+堆肥区:2011~2013年の春季に、樹冠下に1 t/10aのバーク堆肥を施用した後、深さ約5 cm、幅約1 mで列状に中耕、(4)草生区:雑草草生、(5)ゼオライト区:2011年5月27日に300 kg/10aのゼオライトを樹冠下に散布、その後は除草剤により清耕管理、の5処理区である。
  • 果実収穫時期(11月)の土壌の放射性セシウムは、各処理区とも深さ5 cmまでの濃度が深さ5~15 cmより高く(図1、図2)、深さ5 cmまでの土壌では、処理区間の有意差はほぼ認められないが、草生区では濃度が上昇する傾向が見られる(図1)。
  • 深さ5~15 cmの土壌では、中耕を伴う処理区の濃度が、事故発生後4年間中耕をしなかった処理区よりも高い傾向が認められる(図2)。
  • 樹冠下地表面の雑草・落葉等の有機物に含まれる単位面積あたりの放射性セシウム量は、事故発生後3年間で大きく減少し、草生区で最も高く、中耕を伴う処理区で低い(図3)。深さ0~15 cmの土壌に含まれる放射性セシウム量に対するこれら地表面有機物に含まれる量の割合は、2011年には草生区で37%、中耕区で1.4%であるが、2013年は草生区で0.028%、中耕区で0.0052%である(データ略)。
  • 果実の濃度は、いずれの処理区においても事故発生後4年間にわたり指数関数的に減少する(図4)。地表面管理の違いにより土壌中の放射性セシウムの分布が異なっても果実濃度は一様に減少することから、少なくとも事故発生後4年間は中耕、草生管理、堆肥施用などの地表面管理はリンゴ果実の濃度に影響を与えないと示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 福島県農業総合センター果樹研究所(福島市:放射性セシウム(134Cs+137Cs)沈着量は2012年12月で100~300 kBq/m2)に植栽のM.26台「ふじ」(2011年に17年生)を用いた。試験園の土壌は褐色森林土である。データは試料採取日に補正した。
  • 2011年は土壌採取方法が異なり、深さ5~15 cmの濃度は得られていない。深さ0~15 cmの濃度は別途調査した。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:農作物等における放射性物質の移行動態の解明と移行制御技術の開発
  • 中課題整理番号:510b0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(除染プロ)、その他外部資金(戦略推進費)
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:草塲新之助、松岡かおり、阿部和博(福島農総セ)、味戸裕幸(福島農総セ農短大)、安部充(福島農総セ果樹研)、佐久間宣昭(福島農総セ農短大)、斎藤祐一(福島農総セ果樹研)、志村浩雄(福島農総セ果樹研)、木方展治(農環研)、平岡潔志
  • 発表論文等:Kusaba S. et al. (2016) Hort. J. 85(1):30-36